
1. コーナーの狙い
2. 今回の「メモしたい、法務の言葉」
弁護士としての法的知識だけではなく、裁判官への説得、クライアントへの説明、相手方との和解調整といった長年の経験に培われたリーガルマインドによって企業の経営判断に貢献すべきである。
山口利昭 弁護士
山口利昭「実務法曹が社外取締役として活躍する環境について考える」自由と正義2025年5月号19頁
3. 中堅組織内弁護士による分析(個人的な考え)
山口利昭先生は「弁護士は法的知識だけでなく、裁判官への説得やクライアントへの説明、相手方との和解調整などに裏打ちされたリーガルマインドで経営判断に貢献すべきだ」と述べ、社外取締役の平時の役割として組織の動きや阻害要因を客観的に指摘する姿勢を推奨しています。
山口先生のご指摘には100%賛同する一方で、注意点もあります。
誤解があれば恐縮ですが、社外弁護士が取締役会で腕まくりして専門性を発揮しようとするあまり、限られた取締役会の時間を枝葉末節の指摘に費やし、議論を停滞させてしまう例も組織内弁護士や法務コミュニティ(取締役会の事務局は法務部が関わることも多いため)では、度々、耳にします。
たとえば、リーガルリスクマネジメントで言えば、発生可能性も影響度もともに「低い」法的リスクについて長く当該弁護士取締役が指摘・議論することで、本来取り上げるべき経営課題の討議時間を圧迫してしまうケースです。プライド(専門家の自負)が相対的に高めな私達「弁護士」という職種ほど指摘が届きにくいというある方の言葉は耳が痛く、結果として、会社によっては、弁護士取締役の(空気を読まなさすぎる)独演会や長文のお気持ちメモの提出につながる場合もあるやに聞いております(伝聞のため、真偽の程は定かではありません)。
裁判所では論理と証拠を詳細に示せば職業裁判官によって吟味されますが、取締役会は全く同じ構造ではありません。
個人的には、法廷技術をそのまま持ち込むのではなく、一定のアンラーニングが求められる場面もあると感じます。
むしろ、中村直人先生や國廣正先生が指摘されるように「外部弁護士でも社内弁護士でもない、経営という第三の立場」を自覚し、高いコミュニケーション能力を備えた人材を選任することが重要です。周囲からフィードバックがないことを「問題がない」と解釈しない慎重さも必要でしょう。
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[リーガルリスクマネジメントの教科書とは?]
『リーガルリスクマネジメントの教科書』(日本加除出版)は、2023年に出版された教科書です。リーガルリスクマネジメントという臨床法務技術を独学で学んでいただけるよう、心をこめて作成いたしました。きっと喜んでいただけると思います。

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(了)
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