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板倉寿美 法務部長(双日)「(法務部門における)生成AIは起案と学習の加速装置として位置づける」丨メモしたい、法務の言葉

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板倉寿美 法務部長(双日)―メモしたい法務の言葉とは?

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Problem Statement (問題の所在)

法務部員・組織内弁護士は、不確実性が高まる環境の中で、社内のクライアント(依頼者、経営者、事業部門など)の意思決定を十分な情報に基づいて支援する役割を担います。 しかし、日々の業務で何をすべきか迷うときもあります。

ソリューション

定期的に、法律雑誌などで見つけた「珠玉の言葉」を紹介します。 ノートやスマホにメモすることで、自分を鼓舞したり新しい気付きを得るきっかけになることを期待しています。

想定する読者

法務部門の方(とりわけ組織内弁護士・インハウス弁護士)、外部弁護士の方、ロースクール生・司法修習生の方

板倉寿美 法務部長(双日)の言葉

板倉寿美 法務部長(双日)「対面・グループ研修といった人同士の研修を主軸としつつ、生成AIロールプレイヤーや対話ログの自動要約・フィードバックなどのデジタル補助を併用することで、練習量と振り返りの質を高める。最終判断はHuman-in-the-loopで人が担い、生成AIは起案と学習の”加速装置”として位置づける。」

板倉寿美「社内研修―AI活用人材をどう育てるか」ビジネス法務2026年1月号32-35頁

中堅組織内弁護士による分析(個人的な考え)

過去、登壇でもご一緒させていただいた板倉寿美法務部長(双日)が提唱する、AIを「加速装置」として使いつつ、最終判断を人間が担うというHuman-in-the-loopのアプローチは、効率と質のバランスが取れた理想的な研修モデルに見えます。

しかし、注意すべき点もあります。認知科学と人間工学の古典的知見は、この「便利さ」が人間の学習能力と判断力に潜むリスクを呼び起こす可能性を示唆しているので、私たちも改めて、AIの社内研修の「ロジック」「アカデミックなリスク」について検討をしておきましょう。

法務部門のAIは「補助輪」か、それとも「松葉杖」なのでしょうか?

自動化の皮肉:AIが賢くなるほど、人は判断できなくなる

まず考慮すべきは、リザンヌ・ベインブリッジが提唱した「自動化の皮肉(Ironies of Automation)」です。

  • ベインブリッジは、システムが自動化・高度化されればされるほど、人間に残された監視や最終判断というタスクが皮肉にもより困難になることを指摘しました。
  • AIが起案や要約という「思考のプロセス」を肩代わりします。トレードオフとして、人間の判断力とは、泥臭いプロセスを自ら経ることで養われるものですから、AIという加速装置に頼り、下積み的な思考訓練を省略した場合、いざAIが判断できない複雑な局面(Human-in-the-loopが必要な場面)に直面した際、適切な判断を下すための文脈理解や直感を喪失しているリスクがあるとも言えます。便利さは、熟達の敵になり得るのです。

The more advanced a control system is, so the more crucial may be the contribution of the human operator… but the less he may be able to make it. (制御システムが高度になればなるほど、人間のオペレーターの貢献は重要になるが…人間がそれを成し遂げる能力は低下する可能性がある。) Lisanne Bainbridge, “Ironies of automation” (1983).

生成効果:学習には「摩擦」と「苦労」が必要である

次に、記憶と学習のメカニズムにおける「生成効果(The Generation Effect)」という心理学の定説が、AIによる補助に警鐘を鳴らします。

  • スラメッカとグラフの研究で言及される示唆よれば、人間は他者(ここではAI)が生成した情報を読むよりも、自分自身の頭で悩み、生成した情報の方をより深く記憶し、定着させることが分かっているようです。
  • AIによる自動要約やフィードバックは、学習者から「悩む時間」や「言葉を紡ぎ出す苦労」を奪います。したがって、認知的な摩擦(Cognitive Friction)の欠如は、短期的な効率(加速)をもたらす一方で、長期的なスキルの定着を阻害する可能性があります。
  • 本当に育てたいのがAIを活用できる人材ではなく、AIなしでも戦える本質的な法務力を持つ人材であるならば、あえてAIを使わせない「不便な研修」こそが、脳には必要なのかもしれません。

The generation effect is the finding that information is better remembered if it is generated from one’s own mind rather than simply read. (生成効果とは、情報は単に読まれるよりも、自分自身の心から生成された場合の方がよく記憶されるという発見である。) Norman J. Slamecka and Peter Graf, “The generation effect: Delineation of a phenomenon” (1978).

結論:AIは「補助輪」か「松葉杖」か

ベインブリッジとスラメッカの研究が示唆するのは、プロセスを省くことの代償⋯私たちはどのように考えるべきでしょうか。

AIを単なる楽をするための加速装置にするのではなく、人間により深い思考を促すための「壁打ち相手」として設計する必要があります。AIが答えを出すのではなく、AIが人間に問いかける。そのような設計こそが、自動化の皮肉を乗り越え、真の知恵を生成する鍵となるでしょう。

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(了)

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