
1. コーナーの狙い
2. 今回の「メモしたい、法務の言葉」
法解釈とは条文と事実との間で展開される『視線の往復』(循環作業)だ (刑法学者エンギッシュの考えを引用しつつ)
野村修也 弁護士(中央大学法科大学院 教授)
野村修也「会社法における法的思考」ビジネス法務2025年4月号52-53頁
野村先生の執筆された全文は(私も愛読している)ビジネス法務の4月号をどうぞご高覧ください。
3. 中堅組織内弁護士による分析(個人的な考え)
まず、野村修也先生(弁護士・中央大学法科大学院教授)の「法的志向の本質に迫る」という重厚な新連載が始まることを大変楽しみにしています。先生が言及される「法解釈とは条文と事実との間で展開される『視線の往復』(循環作業)だ」というエンギッシュ(刑法学者)の考え方は、私たちが日々向き合う実務においても極めて示唆に富むものであり、読者の皆様にはぜひ原文に当たっていただきたいと思います。
3-1. Airbnbでの実例:2018年・通訳案内士法の70年ぶりの大改正
この「条文と事実を往復する」という視線が、単なる解釈に留まらず、ルールメイキングそのものにおいても重要であることを、私はAirbnbでの経験から実感しました。
私がAirbnbの法務として主導して2018年に通訳案内士法が約70年ぶりに大改正された際、ルールそのものを見直すにあたり、当時の国会資料を丹念に点検し、立法当時の事実関係や立法趣旨を追究する作業が必須だったのです。
「報酬を得て、通訳案内(外国人に付き添い、外国語を用いて、旅行に関する案内をすることをいう。以下同じ。)を行うことを業とする」
具体的には、この資格制度が創設された当時の背景を探ると、外国人旅行者の多くはGHQを中心とする進駐軍の軍属や家族であり、日本国内の旅行もきわめて限られた範囲しか許可されていませんでした。そうした立法事実が反映された「通訳案内士」という資格制度は、現代のように年間2,000万人を超える訪日外国人旅行客が多様な体験を求める時代とは大きくかけ離れています。そこに気づいたからこそ、条文の文言だけに注目するのではなく、「その言葉が生まれたときの立法事実や立法趣旨」を改めて確認し、実態に即した修正を検討する必要があったわけです。
3-2. 条文と事実、立法趣旨を往復する視線の大切さ
野村先生が強調される「視線の往復」(循環作業)は、法解釈においてのみならず、こうした立法の見直しやルールメイキングの場面においても不可欠なプロセスです。
私たちが歴史的背景や社会状況、立法当時の意図を正確に掴むことで、はじめて実務や現代のニーズに合った解決策を導き出すことができるのだと思います。
今後の新連載を通じて、会社法における「往復」の本質がどのように深掘りされていくのか、大いに期待しています。
読者の皆様にも、野村先生の原文にぜひ直接触れていただき、法的思考の神髄を味わっていただければ幸いです。
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[リーガルリスクマネジメントの教科書とは?]
『リーガルリスクマネジメントの教科書』(日本加除出版)は、2023年に出版された教科書です。リーガルリスクマネジメントという臨床法務技術を独学で学んでいただけるよう、心をこめて作成いたしました。きっと喜んでいただけると思います。

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(了)
※記事に関しては個人の見解であり、所属する組織・団体の見解でありません。なお、誤植、ご意見やご質問などがございましたらお知らせいただければ幸甚です(メールフォーム)。
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ソリューション
定期的に、法律雑誌などで見つけた「珠玉の言葉」を紹介します。 ノートやスマホにメモすることで、自分を鼓舞したり新しい気付きを得るきっかけになることを期待しています。
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