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【日曜朝連載】名著『法律家へ激震(Legal Upheaval)』第4回―なぜ弁護士はイノベーターの”マインドセット+スキルセット+行動様式”を磨くべきなのか?(その4)

図表・データ | 組織内弁護士研究ノート® | 法務部とインハウス弁護士の金貨
【日曜朝連載】名著『法律家へ激震(Legal Upheaval)』第4回―なぜ弁護士はイノベーターの"マインドセット+スキルセット+行動様式"を磨くべきなのか?(その4)

◯✕ 問題<正解は末尾>
問1 次の文は正しいか?― Larry Richard(米国の心理学者で弁護士特性研究者)の調査によれば、弁護士の多くは一般人よりも高い心理的レジリエンスを示す。


問2 次の文は正しいか?― Dunning-Kruger効果(能力過大評価バイアス)は、弁護士が自分の弱点を認識しにくい原因として本章で紹介されている。

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毎週日曜の朝に更新し、日本では未翻訳の名著に光を当てます。

著者ミシェル・デステファノ氏マイアミ大学ロースクール教授であり、ハーバード・ロースクールのエグゼクティブ教育プログラムでも教鞭を執る法律教育者です。米国法曹協会からLegal Rebelに選出され、フィナンシャル・タイムズでも「最も革新的な弁護士」トップ20の一人と評価されています。

現在、Airbnbのグローバル法務で各国のリーガルテックに触れる中で、本書のポイントを自分なり取捨選択して謹んで共有したいと考えました。学びの途上として整理した私なりのメモを、毎週日曜朝に全12回でお届けします。

本連載を最後までお読みいただければ、法律事務所でも企業でも「新しい時代の法律家」に求められる視点をデスゲファノ教授から学べると思います。本書から共に学ぶ時間を、私自身も楽しみにしています

Michele DeStefano, Legal Upheaval: A Guide to Creativity, Collaboration, and Innovation in Law (Ankerwycke 2018). [Amazonで原著購入― ハードカバー版のみ]

弁護士の「杖」:スキル・行動・マインドセットにおけるギャップの源泉

デスゲファノ教授は、革新的サービス実現を阻む「弁護士の2つの杖」を示します。

  • 第1に、弁護士の気質で、弁護士は懐疑的で内向的、レジリエンスが低くリスク回避的である傾向が強く、問題発見よりも危険指摘に偏りがちです。
  • 第2に、教育・研修で、法科教育は前例遵守と個人競争を重んじるため、C.O.S.Tスキル(プロジェクト管理やテック活用など)や協働的・創造的問題解決力を養成せず、Lawyer Skills Deltaの上位領域を習得しにくい構造になっています。

デスゲファノ教授は、この「弁護士の脆弱性」を克服する鍵として「3つの関与ルール」を提唱します。

  • 第一のルール「オープン・マインド」は先入観を脇に置いて多様なアイデアを受け入れる姿勢
  • 第二のルール「オープン・ハート」は共感と謙虚さをもって異なる意見や人材を尊重する態度
  • 第三のルール「オープン・ドア」は専門外の人や他社・他業界とも積極的に連携する行動

連載後半で詳細に紹介するこの「3つの関与ルール」を通じて、伝統的な弁護士は自己認識を高め、旧来の思考様式をアンラーニングし、日常業務に組み込むことで、気質の脆弱性を補完し、クライアントが求める協働型イノベーションを実現できると結論づけます。

<本日の答え合わせ>
◯✕ 問題


問1 次の文は正しいか?― Larry Richard(米国の心理学者で弁護士特性研究者)の調査によれば、弁護士の多くは一般人よりも高い心理的レジリエンスを示す。
答 ✕

理由 本文では、Richard博士のデータに基づき「90%の弁護士がレジリエンス下位50%に入る」と述べられており、弁護士はむしろ低レジリエンスであると指摘されているため誤りです。

問2 次の文は正しいか?― Dunning-Kruger効果(能力過大評価バイアス)は、弁護士が自分の弱点を認識しにくい原因として本章で紹介されている。
答 ◯

理由 本章は「自分の能力を過大評価し感情知能の欠如にも気づきにくい現象」としてDunning-Kruger効果を引き合いに出し、自己認識の欠如を説明しているため正しいです。

本章は、今後のプレゼンテーションでも頻繁に利用できそうなため、念の為、原文を敬意をもって引用いたします。

“In addition, according to Dr. Richard, lawyers have very low psychological resilience. Ninety percent of all lawyers score in the bottom 50 percent in resilience. This means that lawyers generally don’t take criticism or rejection very well—and that is likely an understatement. Lawyers are not thick-skinned; they are easily offended and defensive when they are criticized or rejected.”

[仮日本語訳]さらにリチャード博士によれば、弁護士の心理的レジリエンスは極めて低く、弁護士全体の90%がレジリエンス指標で下位50%に入ります。つまり弁護士は一般的に批判や拒絶をうまく受け止められず、その傾向は想像以上に強いということです。弁護士は打たれ強いわけではなく、批判されると簡単に気分を害し、防御的な態度を取るのです

どうやら、米国の心理学者・弁護士のラリー・リチャード博士は、30年以上にわたり数千人の弁護士を性格検査(MBTIなど)で分析し、法律家に共通する心理特性を可視化しました。結果は、①懐疑心が一般平均の約2倍、②社交性が12%程度と極端に低い、③90%がレジリエンス下位50%に位置し批判に脆弱、④自律性が高く個人主義的、という傾向を示します。これらの特性は精緻なリスク発見には有利ですが、協働やイノベーション、建設的フィードバックを阻害し、クライアントが求める創造的価値提供とのギャップを生む要因でもあります。博士は自己認識を高め、多様な人材と協働するトレーニングの導入を提唱し、法曹界に行動変容を促しています。

本日は大変私達弁護士には耳の痛いお話ではございます。改めて、お休みにお目通しをいただき、ありがとうございます。

原著購入の推薦 最後に、本書は「AI時代」到来前の2018年に刊行されながら、リーガルオペレーションや「テック×法務」を先取りし、リーガルテック導入時に直面する障壁を分かりやすく説明しており、非常に学ぶ価値の高い書籍であると考えています。もし研究・実務などでご関心があれば、右のURLからぜひご購入をご検討ください。[Amazonで原著購入― ハードカバー版のみ]

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ご相談・講演のご依頼などはこちらからご連絡を賜れますと幸いです。


(了)

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