エリック・シュミットの警告:過去に縛られるリスクと法務の進化
Googleの元会長であるエリック・シュミット氏が発した言葉に、法律の専門家や法務部門に携わる者として胸を打たれたことがあります。「過去に縛られ、リスク回避を最優先する法務では、インターネット時代に通用しない」というものです。この言葉は、これまでのリスク回避型の法務スタイルを見直す必要があることを示唆しており、現代のビジネス環境において法務がどのように進化すべきかを考えさせられるものでした。
この記事では、エリック・シュミット氏の警告が法務の世界にどのような影響を与え、どのように現代の法務が進化するべきかについて考察します。
変化する時代に対応できないリスク回避の姿勢
多くの法務部門や法律事務所では、リスクを避けることが最も重要な役割と考えられてきました。法律違反を未然に防ぐことはもちろん重要ですが、それだけではビジネスのスピードに追いつくことは難しくなっています。特に、イノベーションが求められる現代では、法務がただ「守る」だけの存在ではなく、ビジネスを推進するためのパートナーとしての役割が期待されています。
エリック・シュミット氏の指摘は、過去の成功体験や慣習に囚われることで、法務がビジネスの成長を妨げる存在になってしまう可能性を警告しています。これは、法務が「何をしてはいけないか」だけでなく、「どうすればそれを可能にできるか」を考えるべきだというメッセージでもあります。
リスクを受け入れる法務への転換:実務での適用例
ある私が外部から支援している企業(スタートアップ)が新しいサービス立ち上げる際に法務に相談した当初、規制の厳しい分野での事業展開を目指していました。当初、このスタートアップの法務チームは「このサービスはリスクが高く、現行の法律に抵触する可能性があるため見送りましょう」という結論を出しました。
しかし、ビジネスサイドはその結論に納得せず、どうすれば実現できるのかを求めていました。ここで重要なのは、リスクを回避するだけでなく、リスクを管理しつつ進める方法を見つけ出すことでした。そこで、私は、法務チームに対して、「こうすればできるかもしれない」という複数のシナリオを提示し、リスクの程度とビジネスのメリットを比較しながら、最適なアプローチを検討することを推奨しました。
結果として、リスクは残るものの、そのリスクを最小限に抑えつつ、ビジネスを進めることができる選択肢を見出しました。この経験は、リスクを恐れるだけではなく、それを管理し、前に進む力を持つことが重要であることを全員が理解し、実践してくれました。
法務の進化:守りから支援へ
現代のビジネス環境では、法務の役割が単なる「守り」ではなく、「どうすれば進めるか」を考えることが求められています。過去の成功体験やリスク回避だけに囚われるのではなく、新しいアプローチを模索し、クライアントや事業部門と共にリスクを受け入れるためのパートナーシップを築くことが、これからの法務の進化の鍵となります。
エリック・シュミット氏の警告は、法務の役割を再定義し、ビジネスの成長を支える存在としての進化を促すものです。法務は変化する環境に対応し、過去の慣習から解き放たれて、新しい時代にふさわしい役割を果たすべきです。
(おわり)
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(了)
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