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【日曜朝/新連載】伝えたい「目的」を欠いた法律文書から卒業丨名著精読!『Legal Writing in Plain English』第2回

ガーナー教授の教科書から筆者が図として再構成

問題の所在+ソリューション[各連載回に共通]

Problem Statement (問題の所在)「英文契約書は好きでない」「法律英語が上達しないのはなぜ」「欧米弁護士の思考で英語の法律文書が書けない」― 法律英語のライティングの悩みは日本の法律家に共通します。私も、です。

ソリューション 2022年、Airbnb法務部の研修で、魔法のような体験がありました。名著『Legal Writing in Plain Englishガーナー教授から直接学ぶ機会があったのです。「できなかった」理由がすっと理解できました。そこで、毎週1記事、名著を「分析」し、一緒に(同期やライバル達よりも)法律英語に少しだけ強くなっていきませんか? ― 精読して蓄えていきましょう。

想定する読者 法律家・法務部門・司法修習生/ロースクール学生の皆様

第2回の読了により、得られる情報

ガーナー教授の教科書は、多種多様なレゴブロックを、部品と色ごとに整理したような「魔法の整理術」そのものである。はじめに、教授は、長々下手くそな法律文書を書く私達のために20のルールを与えてくれる。20のルールは、すべての法律文書に共通し、さらに、3つの箱に分類されている(下記)。

第1部:すべての法律文書における原則
1. 思考の枠組み
2. 文章のフレーズ
3. 言葉の選択

目次 Garner, B. A. (2023). Legal Writing in Plain English, Third Edition: A Text with Exercises. Chicago: University of Chicago Press.

読者は、第2回の読了により、「思考の枠組み」という3つのうち1つの箱にしまってある第1の鍵『§1. 何かを伝えることを考え、それを徹底的に思考する。熱心な意欲を持って作業に取り組む(Have something to say, and think it through. Approach your task with a fervent desire to get your message across)』を理解して、自分・チームの業務を改善できます。

[No.1/計20]伝えたいことを明確にし、それを論理的に展開する

メモ
  • ガーナー教授は、(米国の)裁判所の上記法律文書について、『非常に飾り立てられたスタイルで単に、「前回は間違っていた」と言っているに過ぎない』とバッサリ論評します。ガーナー教授は、効果的な法律文書作成のための基本的な原則として、自分の伝えたい「目的」を明確にし、それを論理的に展開することが強調します。情報を羅列するのではなく、情報を伝える狙いとどのように関連しているのかを熟考し、その結果を明確に示すことが求めます。
  • ガーナー教授は、多くの法律家は、結果として「伝えたい目的」を欠いた曖昧なスタイルの文書を生み出していると指摘します。仮に読者が意図を理解するために努力する必要がある場合、その文章は無意味だとも厳しく糾弾します。
  • ガーナー教授は、法律文書作成においては、特定の読者を意識し、その読者に合わせて情報を整理し、説明することが重要と示唆します。さらに、すべての文書には、第一読者だけでなく、第二読者も存在することを認識し、一般的な理解が可能なように文書を作成する必要があると伝えます。
堤かおり弁護士

ご無沙汰しております『リーガルリスクマネジメントの教科書』主人公の弁護士の堤でございます。

早速ですが、ガーナー教授の「第1の鍵」は、耳が痛いです。

目的を欠いた無意味な文書情報羅列製造マシーンになっている可能性がある自分を省みました。情報をもれなく盛り込みすぎて、結局、「伝えたい目的」が曖昧な10頁を超える法務文書とかよくありますよね。

「第二読者」も改めてハッとしました。法律事務所のアソシエイト・企業法務部の若手の場合、第一読者は「パートナー弁護士・上司」であることが多いのですが、当然、第二読者には「パートナー弁護士のクライアント・事業部門の人」というケースが良くある気がします。

外資系企業の組織内弁護士である渡部さんからは、この第1の鍵についてどう思われますか?

渡部(管理人)

この問題は、国内法律事務所と外資系法律事務所の「外資系クライアント」との仕事で如実に現れてきます。言い換えれば、なぜ、1時間10万円以上する場合もある外資系の法律事務所に対して依頼をするかという点です。

国内事務所:「第二読者」= 往々にして「日本法の弁護士」

外資系事務所: 「第二読者」=「米国/欧州本国の弁護士(決裁者)」

一概には言えませんが、外資系パートナーやそのチームの場合、プロダクトをそのまま、日本国外の同僚にシェアできることが多い場合があります。これは、ガーナー教授の「第二読者」のフォーカスが異なる可能性があるなと考えました。

教訓として、私達、法務部員・インハウス弁護士は、依頼時に、外部弁護士に対して、当該法律文書の「最終消費者」は誰かについて伝える努力を怠らないべきです。そして外部弁護士はこれを依頼者(日本人弁護士・法務部)と独断せず、必ず質問すべきです。第二読者が違えば、プロダクトの質も目的も異なるからです。

ガーナー教授の教科書(第3版)―敬意をもって強く推薦―

Garner, B. A. (2023). Legal Writing in Plain English, Third Edition: A Text with Exercises. Chicago: University of Chicago Press.

現在・将来、英文の法律文書を扱う法律家・法務部員の方は必携です(Amazonを見る

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(了)

※記事に関しては個人の見解であり、所属する組織・団体の見解でありません。なお、誤植、ご意見やご質問などがございましたらお知らせいただければ幸甚です(メールフォーム)。

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