1-10年目の組織内弁護士の 年収面のアップサイド戦略を少し考えてみる(第2回・完)

2021年に第1回を書いて、その後、多忙にかまけて、第2回以降が続いておりませんでしたので、第2回(完)をつらつらとお届けいたします。

第1回 記事のポイント (by GPT4.0)

この記事は、組織内で働く初心者から中堅の弁護士が、どのように年収を増やすかという問題に取り組む二つのアプローチを提供しています。

第一の観点は、法務の重要性を理解し、その上で「ジョブ型」の採用を行っている企業を目指すことです。

第二の観点は、株式や潜在株式を付与する企業を対象とすることです。

しかしながら、本稿は筆者の個々の経験と知識に基づいているので、全てのケースに当てはまるわけではありません。組織内弁護士の平均年収も議論され、5〜10年のキャリアを持つ弁護士の平均年収は960万円とされています。外資企業や「ジョブ型」の採用を採る企業は、スキルの希少性が高まるため、より高い報酬が期待できます。また、この高い報酬は特に英語力がある場合に顕著で、そのため英語力を身につけることが高収入を得るための有効なレバレッジとなり得ると結論付けられています。

株式報酬の夢と現実

金銭的な報酬はもちろん重要ですが、それだけでは計れない価値もまた、キャリアを形成する上での大事な要素と言えるでしょう。

本記事では、特に法務人材に焦点を当てて、外資系IT企業や未上場スタートアップでの報酬体系、特に株式報酬の魅力とリスクについて個人的な「感想」を叙述しております。

外資系IT企業と株式報酬の基礎(私見)

はじめに、外資系IT企業では、(10年目までのキャリアに関して)四大法律事務所や外資系法律事務所に匹敵するような高待遇を提供しているところも少なくありません。

一方、国内IT企業では、そのようなケースは、フェアにみても、やや乏しいまたは稀だと認識しています(そもそも1200万円を超えてくると執行役員というような企業も多くあります=つまり法務部門の1社員がここを超えてくるのは給与体系上無理という天井がでてきます。転職時には聞きにくく、入社して気がつくこともあるので要注意)。

また、報酬の魅力として、高いベースペイメント(基礎報酬・年収)に加えて、株式報酬があります。さらに、金銭的なボーナス(年収の10-25%など様々)がある企業もあるでしょう。

日本のIT企業と給与水準が異なる理由についてはいくつか理由が推察されるものの、個人的には、Google、マイクロソフト、Amazon、Metaなど様々なITのリーディングカンパニーをベンチマークしていることが上げられます。

実は、人材獲得競争で負けないよう、トップ企業がどのくらいの報酬をどの地域の従業員(どのくらいの役職に)いくら出しているかを調べているHR企業が存在し、各企業が、このHR企業のデータに基づいて各社が報酬を設計しているという仕組みが大きいのではないかと想像しています。

未上場の企業であれば、その魅力はさらに高まる可能性も考えられます。もちろん、これは一例であり、各企業、各個人によって状況は異なるかもしれません。

生存率のリアル:未上場スタートアップの厳しさ

人生は、何事も「トレードオフ」と私は考えております。

未上場のスタートアップ企業では、報酬の一部が株式で構成されることが多いです。ただ、こちらにも「トレードオフ」がもちろんあります。

一般的に、スタートアップ企業の生存率は、創業から5年での生存率はわずか15.0%。10年後は6.3%と、さらに減少します。つまり、入社する企業が生き残る確率は決して高くないということです。

人生の「旅」の相棒を選ぶ

株価の上下や企業の成功は予測不可能な要素が多く、コントロールすることはできません。

そこで大切なのは、「誰とどのような旅をするか」という視点になるかもしれません。一時的な成功よりも、長期的な幸福を求めるならば、企業文化やチームとの相性も考慮する価値があります。このあたりも、報酬と人生、何事も「トレードオフ」でございます。

私個人も、上場やお金だけを目当てにしていてスタートアップ企業に飛び込んでも、その環境と旅を楽しめないのであれば、あまり幸せでない可能性があることをお伝えしたいです。

弁護士の20代・30代のキャリアの最も大切な時期に「誰とどのような旅をするのか」が大事です。実際に私の正直な話をすると、Airbnb入社以降、RSUは紙切れ=自分の資産ではない、と考えるようにしていました(実際、そのようなことを忘れるほど、小さなボロマンションの一室でAirbnb初期の日本チームの仲間との仕事が楽しかった時期でした)

「あってもないがごとく」―なぜなら、上場なんて、天気と同じで、いつどのようになるかなんて、コントロールもできませんし、それにライフプランを賭けるのも何か違うなと思ったからです。

私個人の年収(差額は全て与えて頂いたもの、という)考え方(完全な私見)

年収の私なりの考え方

(今の年収)ー(自分が考えるベース年収)= 差額(周りの方から与えていただいたもの)

人によって物事の価値観や会社から頂く労働の対価についての考え方は千差万別ですが、このところ長い間、私は次のように考えています(多分、少数説)。

  • 私のベース年収は、1番最初のインハウスに転職したときの年収。
  • すなわち、それを超過する金額は「周りの方から与えていただいたもの」と考えております。
  • このように考えると、不思議と、気持ちも穏やかで慈しみがでてくるものです。
  • この差額は、色々な方が引き上げてくれたから、助けてくれたから、自分が成果が出るように環境を整えてくださったから、と考えます。
  • すると、自然に感謝の気持ちが持てます。
  • 周りの方に対する、「感謝の見える化」(一例として、誕生日に、感謝の気持ちをお花やコーヒーで示す、お会いした際に、気の利いたご家族で楽しんでいただけるようなお菓子を持参する)など、差額から考えたら僅かなものではないでしょうか。

お世話になったAさんに会食でお目にかかるシーンを考えてみましょう。手土産を持参しようか。電車に乗る前の移動時間余裕がない、お店に並ぶのもなんだかもったいない、値段も物価高もあいまって1箱1,500円…もったいないな。そのように捉えるのか、それとも、「差額」を少しでもお戻し(弁済)できる数少ないチャンス到来!と考えて、3日後の会食を考えてわくわくしてデパ地下のお店で予め素敵なお菓子をさがし、1箱1,500円は「差額」に照らすとほんのわずかだけど、感謝を示そうと考えられるのか ― 私は後者がいいなと思って実践しています。

自分の努力だけで昇進・昇給したと考えていると、私は自分がケチになりそうで、より大切なものを失いそうなので、この「差額」(与えていただいたもの)の考え方が好きです。なお、冒頭に述べた通り、人によって物事の価値観や会社から頂く労働の対価についての考え方は千差万別で、どれが正解というものでもなく、単なる個人の所感・内心です。

総合的なキャリアプランを

株式報酬は確かに魅力的ですが、それだけに囚われずに、リスクとのバランスを考慮することも大事です。高リスク・高リターンの世界である以上、慎重なキャリアプランが求められます。

株式報酬は、特に法務人材にとって将来的なキャリア形成において大きな機会となる可能性があります。しかし、その裏側に潜むリスクも見逃せません。自分がどのような「旅」を望んでいるのか、しっかりと考え、全体的なキャリアプランを練る時間を持つことが、おそらく大切になるでしょう。

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ご相談・講演のご依頼などはこちらからご連絡を賜れますと幸いです。


(了)

※記事に関しては個人の見解であり、所属する組織・団体の見解でありません。なお、誤植、ご意見やご質問などがございましたらお知らせいただければ幸甚です(メールフォーム)。

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