東京弁護士会様 講演録丨リーガルリスクマネジメントの教科書(1/4)―新規事業の法的リスクに挑む

新規事業の法的リスクに挑む:失敗から学んだ成功への道

新しいビジネスを立ち上げる際、法的リスクは避けて通れないものです。特に、企業のリーガル部門においては、リスクを最小限に抑えつつ、ビジネスの成功をサポートするというバランスを保つことが求められます。しかし、このバランスを取るのは決して簡単ではありません。

私がかつて経験した、新規事業の法的リスクに対する挑戦と、そこから得た教訓についてお話ししたいと思います。この経験は、DeNA時代におけるもので、当初は多くの不安と疑問がつきまといました。しかし、最終的にはこれが大きな学びとなり、成功への道筋を見出すことができました。

初めの試練:法的リスクの壁

新規事業が持ち上がったとき、私の役割は、そのビジネスが法的に安全であることを確認することでした。しかし、調査を進める中で、次々と法的な問題が浮かび上がってきました。その時点では、どれもクリアすることが難しいものばかりで、事業部門との会話も次第に重苦しいものになっていきました。

「このままではリスクが大きすぎる」というのが私の結論でした。そして、それを伝えると、事業部門からはため息と共に「それではビジネスは進められない」と返されました。

当時、法的に白黒つけることが求められる(と誤解していた)法務の立場としては(正解は、リスクがあります、ではなく、リスク低減策を考えてリスクを前に転がしていくことだった)、当然の判断でしたが、ビジネス側から見ると、この結論はあまりにも消極的に映ったことでしょう。

道を切り開く:細い糸を手繰るように

しかし、ここで終わってしまっては、法務としての本当の価値を提供できたことにはなりません。私は再度、問題を見直し、細かい点まで掘り下げていくことにしました。資料を読み漁り、判例を確認し、業界の慣例や他社の取り組みを調べる中で、事業部の方が探し当てた行政官(その道30年の生き字引のような方)のご助言から、ついに一筋の光明を見つけました。

それは、法律の解釈にわずかながら柔軟性があることに気づいた瞬間でした。この発見により、リスクを最小限に抑えながら、事業を進める方法を提案することができたのです。結果として、この新規事業は無事に立ち上げられ、現在では企業価値100億円に成長しています。

失敗から学んだこと:法務の真の役割とは?

この経験を通して、私は「リスクがあります」で終わるのではなく、「リスクがあるが、こうすれば対応できる」という提案が重要であることを学びました。法務部門の役割は、ビジネスを守ることだけではなく、ビジネスを支援し、成長へ導くための道を示すことにもあります。

法的リスクが見つかったとき、それを乗り越えるための方法を模索し、ビジネスチャンスを最大化することが、現代の法務に求められるスキルです。

これからも、法務としての責任とビジネスの成長を両立させるために、リスクテイクの方法を学び続けることが重要だと強く感じています。

(つづく)

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[リーガルリスクマネジメントの教科書とは?]

リーガルリスクマネジメントの教科書』(日本加除出版)は、2023年に出版された教科書です。リーガルリスクマネジメントという臨床法務技術を独学で学んでいただけるよう、心をこめて作成いたしました。きっと喜んでいただけると思います。

渡部友一郎『攻めの法務 成長を叶える リーガルリスクマネジメントの教科書』(日本加除出版、2023)

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(了)

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