
松村祐土弁護士(日立製作所 CLO)の言葉丨目次
松村祐土弁護士(日立製作所 CLO)―メモしたい法務の言葉とは?
松村祐土弁護士(日立製作所 CLO)の言葉
NBL1300号の座談会は必見です。4回にわたって貴重な言葉・インサイトの一部をご紹介させてください。
松村祐土弁護士(日立製作所 CLO)「バウンダリー(筆者注:部署間の垣根、所管業務、役割)を越えて意見を言ってもらえる心理的安全性のある環境をつくっていかなければいけない。」
少德彩子=松村祐土=野島嘉之=高野雄市「座談会 ジェネラル・カウンセルの役割と資質」 NBL1300号(2025年)4-33頁
ご登壇者
①パナソニックホールディングス株式会社 取締役/執行役員 グループGC、グループCRO 少德彩子 氏、②株式会社日立製作所 代表執行役 執行役常務 CLO兼ゼネラルカウンセル 松村祐土 先生、③三菱商事株式会社 代表取締役 常務執行役員 野島嘉之 氏、④三井物産株式会社 常務執行役員 General Counsel 高野雄市 氏
中堅組織内弁護士による分析(個人的な考え)
松村祐土弁護士(日立製作所)の「バウンダリーを越える」という言葉は、従来の心理的安全性(Psychological Safety)の議論を一段階深く掘り下げるものです。
単に「何を言っても怒られない」という受動的な安心感ではなく、異なる専門領域の壁を能動的に突破するためのエンジンの役割であることは、既に巷の「心理的安全性」の文献で言い尽くされているところです。
ここでは、2024年から2025年にかけて発表された最新の論説などから、この「越境する力」を支える二つの新しい情報を提供します。
逆説的真理:「構造」こそが越境の安全を作る(かも?)
心理的安全性を高めるには、組織の階層や境界線を曖昧にすべきだと考えられがちです。しかし、2025年に発表された最新の記事では、この常識に修正を迫ります。
異なる専門職(医師、看護師、管理者など)が混在するチームの研究において、実は「明確な構造と境界(Clear parameters and boundaries)」が存在することで初めて、メンバーは心理的安全性を感じ、その上で境界を越える行動が取れることが示されています。
自分の役割(ホーム)がどこにあるかが明確でなければ、人はアウェー(他部署)に踏み込む恐怖に勝てないのです。バウンダリーを越える環境とは、垣根を取り払うことではなく、法務としての軸足(構造)を明確にした上で、他者への橋を架ける「構造的な安全性」の構築を意味しているという点に留意が必要です。
“Structured leadership approaches created conditions for psychological safety… [Findings revealed] clear parameters and boundaries, psychological safety within structure.” (構造化されたリーダーシップのアプローチが心理的安全性の条件を作り出した…[知見として]明確なパラメータと境界、および構造の中における心理的安全性が明らかになった。) Structure and psychological safety as complementary elements in integrated healthcare leadership teams (2025).
心理的安全性は「コミュニケーション行動」へ変換されて初めて価値を持つ
また、心理的安全性が具体的にどうやってイノベーション(新しい価値)に変わるのか、そのメカニズムへの最新の見解も示唆に富んでいます。この記事(The impact of team psychological safety on employee innovative performance (2024).)は、心理的安全性があるだけでは不十分であり、それが具体的な「コミュニケーション行動(知識の共有や建設的な議論)」という媒介変数に変換されて初めて、組織の革新的なパフォーマンスが向上することを実証しました。
つまり、ただ安心できる職場を作るだけでは意味がなく、その安心感を土台にして、法務部員が「あえて発言する」「あえて反論する」という具体的な行動に出るようデザインする必要があります。
松村氏が「意見を言ってもらえる」と受動態ではなく能動的な相互作用を強調しているのは、この科学的なメカニズムの本質を正確に把握されているからであると拝察しております。
結論:越境する勇気は「設計」から生まれる
これら近時の論説が再確認するのは、心理的安全性とは「優しさ」の問題ではなく、「設計」の問題だということです。
法務としての立ち位置(構造)を明確にし、その上で具体的な発言(行動)を促す仕掛けを作ること。松村氏の言葉を実践するためには、私たち法務パーソン自身が、専門性の殻に閉じこもるのではなく、その殻を「安全基地」として利用し、勇敢にビジネスの現場を相互につなぐ橋渡しの姿勢が求められているかもしれません。
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