「鏡にうつったあなたのコミュニケーションは?」「クライアントは選択肢がないから我慢しているだけではありませんか?」― 今回のシリーズは、耳が痛いかもしれません(私も読むと大なり小なり絶対にないとは言えず反省しきりです)。ここでは、事業部門のAさんになりきって、弁護士・法務部門Bさんとのやりとりを見て、私含め普段のコミュニケーションを一緒に自省・改善する修行コーナーです。
頼者・事業部門に寄り添う「最高のサービス」を提供する弁護士・法務部を一緒に少しずつ目指してまいりましょう🤝 Happy to helpです。
新規SNSプラットフォームの進出と法的リスク評価:冷徹な法務の壁に阻まれて
インターネット業界は、日々新たな機能が登場し、ユーザーの期待に応えるためにはスピード感が求められます。しかし、そんな中で法務部門との調整がどれだけ難しいか、経験したことがある方も多いのではないでしょうか。今回は、そんな法務と事業のリアルなやり取りをお伝えします。
登場人物
- 事業部門 (Aさん): エネルギッシュで革新的なアイデアを持つSNSプラットフォームの開発担当者。
- リーガル部門 (Bさん): 冷徹でリスク回避を最優先する法務担当者。
会話の流れ
Aさん(事業部門):
「Bさん、今日の会議ありがとうございます。新しいニーズに応える当社『初』となるSNSプラットフォームの開発、いよいよ佳境に入ってきました。ユーザーが自由にコンテンツをシェアできる機能が最大のウリで、これが競合に対する強みになると信じています。法的なリスクの確認もお願いしたいんですが、どうでしょうか?」
Bさん(リーガル部門):
「確認しました。問題は多々ありますね。まず、ユーザーの投稿内容に対する著作権侵害のリスク。それに、プライバシー保護が不十分で、法的に非常に危険です。自動フィルタリングの精度も甘い。このままでは、ユーザーが違法コンテンツを投稿するリスクが極めて高いです。」
Aさん:
「おっしゃる通り、リスクがあるのは理解しています。でも、この新機能は今後のプラットフォームの成長に不可欠なんです。フィルタリングの精度を上げるのには時間がかかりますが、リリースしてからアップデートを繰り返していくという方法ではダメでしょうか?」
Bさん:
「それは無理です。法務としては、リスクが完全に管理されていない状態でリリースするのは許可できません。違法コンテンツが投稿された場合、責任を取るのはあなたではなく、会社全体なんです。安全策を講じないまま進めるのは論外です。」
Aさん:
「でも、外資の競合が同じような機能をすでに開発中なんです。私達は巨大な外資の前に『挑戦者』である小さなスタートアップですよ。お客様もサービスも知名度は皆無の状態です。このタイミングを逃せば、私たちは完全に出遅れてしまいます。リスクを軽減しつつ、進められる方法を一緒に探していただけませんか?」
Bさん(冷淡に):
「リスクを冒すことはできません。リリースが遅れても、それは法的な安全性を確保するためです。今焦ってリリースして、後で問題が起きたらどうするんですか?一度信頼を失ったら、挽回は難しいですよ。リスクがある限り、私たちはOKとは言えません。」
Aさん(心の声):
(こんな冷たい対応…こっちは必死でビジネスを進めようとしているのに、何も解決策を出してくれない。これじゃあ、競合に負けてしまうのは目に見えている…)
Aさん(声を震わせながら):
「わかりました…。せっかくのこの機能も、リリースが遅れれば遅れるほど、価値が薄れてしまいます。こんなに悔しい思いをするなんて…。」
結論:
事業部門は、リーガル部門からの冷徹な指摘(リスクがあります [完])により、新機能のリリースを断念するしかなかった。その結果、ライバルの外資が類似の機能を先行して市場投入し、貴重なビジネスチャンスを失った事業部門は深い失望感と無力感を抱えることとなる。なお、法務担当のBさんは悪いことをしたとは1つもおもっていない。数カ月後、スタートアップは新規調達を受けることができず、事業は立ち行かなくなり、人員整理が行われ、Bさんはまっさきに職を失った。
まとめ
法務部門の冷徹な対応が、どれだけ事業部門の努力や熱意を打ち砕いているか、このやり取りはまさにその一例です。もちろん法的リスクの回避は重要ですが、ビジネスの成長を妨げないためには、より柔軟で建設的な対応が求められています。事業の現場で、法務がどう見られているのか、今一度考え直してみてはいかがでしょうか?
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(了)
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