法務のバックグラウンドがない上司に疲れる丨リーガルリスクマネジメントの教科書みんなの相談室(2)丨営業時間 火曜朝

1. 本日の相談室(火曜日朝のみ営業)

若手の組織内弁護士の方

渡部先生、相談があります。

相談内容 上司が法務のバックグラウンドを持っていません。そのため、時々、法的な判断において誤解が生じ、イライラします。このような状況で、私たち法務部員・組織内弁護士に対して、何かアドバイスはありませんか?

わたなべ

共感 はじめに、法務のバックグラウンドを共有している者同士であればおそらく生じにくいフリクション(摩擦)が生じるのではないでしょうか。きっと、お仕事があなたの思うようなペースで進まないことや説明の労力でお疲れであり、このような辛いお気持ちが生じることは私は正当・自然であると思っています。「法務のバックグラウンドを持った前任の◯◯さんならもっと早く進めているのに」「弁護士事務所時代と違う」など、色々なタラレバもきっとあなたのイライラを無意識に増幅させているのではないかと思います。

私なりに心を込めた回答 非常に難しい問題ですが、2つ謹んで提言がございます。

  • 第1に、あなたのイライラや「こいつ法務のことわかってねーな」というような心のどこかに潜む不遜な態度・気持ちは、正直、上司に対して、表情や態度からチラチラと漏れ出ていると思います。
    • 滲み出る不遜な態度が状況を悪化させている可能性はないでしょうか?
    • 例えば、あなたが、いきなり何のバックグラウンドもない「経理部」にプレイヤーではなく「管理職」として異動した場合、あなたは誰よりも自分自身にバックグラウンドがないことを自覚し不安に思っていると思います。そのような状況で、「ちっ、こいつ経理のことわかってねーな」という不遜な態度・気持ちが滲み出ている部下に接するとき、あなたは日々「不安」な状態にあると思います。何とか「繕おう」と思うかもしれませんし、必死に、付け焼き刃で「それらしく」振る舞おうとするかもしれません。
    • しかし、あなたの態度は、上司ーあなた間の「心理的安全性」を残念ながら低減させている可能性があり、上司のさらなるミスや質問ができない状況を誘発・醸成している可能性があります。ですので、今の状況は、上司のバックグラウンドが単一の原因ではなく、あなた側には心理的安全性を「法務の専門家」として確保できていなかった可能性はないかという別の要因をうかがわせます。すなわち、謹んでお尋ねすれば、帰責対象に「盲点」はないでしょうか
  • 第2に、ではどうするか?―ですが、私であれば、「上司が法務のバックグラウンドを持っていない」ことは、マイナスどころか、プラスだと思います。
    • なぜなら、クライアントはそもそも「法務のバックグラウンドを持っていない」ところ、より身近な存在でありクライアントと同じ属性を持つ上司をHappyにできるようなリーガルリスクマネジメント(特定→分析→評価→対応+コミュニケーション・協議)ができないようであれば、クライアントも同様に満足させられないからです。
    • また、一度、上司の信頼と心理的安全性を確保できれば、きっと上司は法務以外のパースペクティブも貴方に与えてくれると思います。
  • 自分がどのようにその方に貢献できるか、という視点を欠いたとき、法律家は、やや傲慢な「こいつ法務のことわかってねーな」という態度をにじませます。私たちが、お医者さんに行って「こいつ医学のことわかってねーな」、不動産屋さんに行って「こいつ不動産のことわかってねーな」、銀行に行って「こいつ金融商品のことわかってねーな」、区役所に行って「こいつ行政手続のことわかってねーな」というサービスを提供されたら、それは果たして「informed decision」に資するプロフェッショナルな仕事でしょうか
  • 価値観はそれぞれ異なることを認識した上となりますが、私個人の価値観としては、それはきっと目指すべきお仕事の姿ではないのかなと思います。
    • 外資企業では、貴方以外日本法・日本文化のことは知らないなんて当たり前です。
    • 文化・価値観も異なります。そのような多様な価値観の世界で働いているとき、たかだが日本法の法務のバックグラウンドがないだけで上司を論難していては、折角のチャンスを逃していると思います。
    • どのように役立てるかを考えていったほうが幸せではないでしょうか。
  • 専門家としての自負・誇りは素晴らしいものですが、それが、組織の中で、本当にプロフェッショナルな仕事なのかは、多角的に検討する必要があると個人的には考えております。5×5のリーガルリスクマトリクスを用いるなど、上司にどのようにコミュニケーションすることが「相手の靴のサイズにあわせる」コミュニケーションなのかを考えていきましょう。苦しいと思いますが、ぜひこのチャンスを前向きにとらえ、一緒に前進していきましょう。そして、お気持ち自体は正当である点、お忘れなくです。

教科書該当箇所 渡部友一郎『攻めの法務 成長を叶える リーガルリスクマネジメントの教科書98-105頁(日本加除出版、2023)

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(※順不同:肩書は2023年2月時点:個人の見解です)

https://www.kajo.co.jp/c/book/07/0701/40940000001

(了)

※記事に関しては個人の見解であり、所属する組織・団体の見解でありません。

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