ジェネラルカウンセル論(4/4・完)高野雄市氏(三井物産株式会社 常務執行役員 General Counsel)丨メモしたい、法務の言葉

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高野雄市氏(三井物産株式会社 常務執行役員 General Counsel)―メモしたい法務の言葉とは?

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Problem Statement (問題の所在)

法務部員・組織内弁護士は、不確実性が高まる環境の中で、社内のクライアント(依頼者、経営者、事業部門など)の意思決定を十分な情報に基づいて支援する役割を担います。 しかし、日々の業務で何をすべきか迷うときもあります。

ソリューション

定期的に、法律雑誌などで見つけた「珠玉の言葉」を紹介します。 ノートやスマホにメモすることで、自分を鼓舞したり新しい気付きを得るきっかけになることを期待しています。

想定する読者

法務部門の方(とりわけ組織内弁護士・インハウス弁護士)、外部弁護士の方、ロースクール生・司法修習生の方

高野雄市氏(三井物産株式会社 常務執行役員 General Counsel)の言葉

NBL1300号の座談会は必見です。4回にわたって貴重な言葉・インサイトの一部をご紹介させてください。最後は、私が特に敬愛する高野様です。

高野雄市氏(三井物産株式会社 常務執行役員 General Counsel)「特にジェネラル・カウンセルに要請されるポイントとして⋯変化を読む目を持って、課題設定をしっかりやっていかなければいけない」

少德彩子松村祐土野島嘉之高野雄市「座談会 ジェネラル・カウンセルの役割と資質」 NBL1300号(2025年)4-33頁

ご登壇者
①パナソニックホールディングス株式会社 取締役/執行役員 グループGC、グループCRO 少德彩子 氏、②株式会社日立製作所 代表執行役 執行役常務 CLO兼ゼネラルカウンセル 松村祐土 先生、③三菱商事株式会社 代表取締役 常務執行役員 野島嘉之 氏、④三井物産株式会社 常務執行役員 General Counsel 高野雄市 氏

中堅組織内弁護士による分析(個人的な考え)

高野雄市氏(三井物産)が指摘する「変化を読む目」と「課題設定」の重要性は、単なる実務能力を超えた、リーダーシップの最深部に関わるテーマでした。

思えば、人類は古来より、不透明な未来を見通すための賢者の石を求めてきました。

ここでは、経営戦略論と組織心理学の二つの古典的理論を訪ねてみながら、なぜ「読み、設定する」ことが組織の命運を分けるのか、その科学的メカニズムを備忘としてまとめました。

弱いシグナル理論:嵐が来る前の「ざわめき」を聴く

戦略経営の父と呼ばれるH.イグオール・アンゾフは、1970年代に「弱いシグナル(Weak Signals)」の概念を提唱しました。彼によれば、企業を揺るがすような大きな変化や危機は、突然現れるものではありません。最初は極めて曖昧で断片的な情報(弱いシグナル)として現れ、徐々に輪郭を帯びてきます

多くの組織は、情報が確実になってから動こうとしますが、アンゾフはそれでは手遅れだと警鐘を鳴らしました。

高野氏の言う変化を読む目とは、データが揃った後に分析する力ではなく、まだノイズにしか聞こえない段階で「何かがおかしい」と感知する感性のことです。法務の役割は、契約書の文言チェックだけでなく、社会の微細な変化を誰よりも早くキャッチし、それを組織のリスクや機会として翻訳することにあるのです。

“Strategic surprise… does not occur ‘out of the blue’. It is preceded by pre-cursors… vague, qualitative, and hard to interpret information… called weak signals.” (戦略的奇襲は突然起こるものではない。それには前兆がある…曖昧で、定性的で、解釈が困難な情報…それが弱いシグナルと呼ばれる。) H. Igor Ansoff, “Managing Strategic Surprise by Response to Weak Signals” (1975).

センスメイキング理論:課題は発見するものではなく「創造」するもの

一方、組織心理学の大家カール・ワイクの「センスメイキング(意味づけ)理論」は、課題設定の本質を突いています。

ワイクによれば、世界は客観的な事実だけで構成されているのではなく、人々が情報を解釈し、意味を与えることで初めて「現実」として立ち現れます。不明瞭で混乱した状況下で、断片的な事象を繋ぎ合わせ、「今何が起きているのか(Status)」「我々は何を解くべきか(Agenda)」という納得感のあるストーリーを作り出す能力こそが、リーダーシップの要素の一つとされているのです。

高野氏が課題設定を強調するのは、問題が最初からそこにあるわけではないからです。

混沌とした変化の中で「これが我々の取り組むべき法的課題だ」と定義し、組織の認知をセットすること⋯それは受動的な分析ではなく、能動的な現実の「創造」プロセスなのです。

  • “Sensemaking is about such things as: placement of items into frameworks, comprehending, redressing surprise, constructing meaning, interacting in pursuit of mutual understanding, and patterning.” (センスメイキングとは次のようなものである:項目を枠組みに配置すること、理解すること、驚きを修正すること、意味を構築すること、相互理解を求めて対話すること、そしてパターン化すること。) Karl E. Weick, “Sensemaking in Organizations” (1995).

結論:法務は組織の「航海士」である

アンゾフの理論は「感度」を、ワイクの理論は「構成力」を説いています。この二つを統合すると、ジェネラル・カウンセルの重要な能力の一側面が見えてきます。それは、水平線の彼方にある微かな兆候(弱いシグナル)をいち早く察知し、それが組織にとって何を意味するのかという物語(センスメイキング)を紡ぎ出し、経営陣が進むべき航路(課題)を指し示す航海士の役割です。

明日からの会議では、誰もが気づく大きな数字ではなく、誰もが見落としている小さな違和感にこそ、目を凝らしてみてはいかがでしょうか。

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(了)

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