中村直人弁護士「弁護士とはいろんなことをやっていける可能性が一番ある仕事」丨メモしたい、法務の言葉

図表・データ | 組織内弁護士研究ノート® | 法務部とインハウス弁護士の金貨

中村直人弁護士―メモしたい法務の言葉とは?

図表・データ | 組織内弁護士研究ノート® | 法務部とインハウス弁護士の金貨

Problem Statement (問題の所在)

法務部員・組織内弁護士は、不確実性が高まる環境の中で、社内のクライアント(依頼者、経営者、事業部門など)の意思決定を十分な情報に基づいて支援する役割を担います。 しかし、日々の業務で何をすべきか迷うときもあります。

ソリューション

定期的に、法律雑誌などで見つけた「珠玉の言葉」を紹介します。 ノートやスマホにメモすることで、自分を鼓舞したり新しい気付きを得るきっかけになることを期待しています。

想定する読者

法務部門の方(とりわけ組織内弁護士・インハウス弁護士)、外部弁護士の方、ロースクール生・司法修習生の方

中村直人弁護士の言葉

中村直人弁護士「弁護士とはいろんなことをやっていける可能性が一番ある仕事⋯(略)⋯弁護士だけは自分個人の能力でお客様に来ていただける。」

加藤新太郎=中村直人「弁護士と裁判官のキャリア・プランニング―育ち方・育て方」NBL1300号(2025年)34-52頁

中堅組織内弁護士による分析(個人的な考え)

組織を超える「プロティアン・キャリア」の可能性

はじめに、敬愛する中村直人弁護士が語る弁護士の無限の可能性は、資格を問わず、法務という専門領域を極める私たち誰もに当てはまりうると考えています。

その上で、ボストン大学ダグラス・ホール教授が1996年に提唱した「プロティアン・キャリア」という概念をご存知でしょうか。

ホール教授は、キャリアは組織によって管理されるものではなく、個人の価値観によって導かれ、環境に応じて変幻自在に形作られるべきだと説きました。法律家・弁護士という専門性は、まさに組織の梯子を登るためだけでなく、個人が人生を自由にデザインするための最強のパスポートと言えます。

“The career of the 21st century will be protean, a career that is driven by the person, not the organization.” (21世紀のキャリアはプロティアンであり、それは組織ではなく個人によって主導されるものである。)

「スーパースターの経済学」が証明する個の価値

また、個人の能力で顧客を呼べるという点は、もしかしたら、中村直人先生が拙著『成長を叶える組織内弁護士の教科書』で述べた「会社の机に法律事務所の看板を掲げる」という部分を褒めてくださった裏側にある、先生の価値観と共鳴する部分があったのかもしれません(願望かもしれませんが、密かにそのように考え嬉しくなりました)。

シカゴ大学シャーウィン・ローゼン教授の古典的論文である「スーパースターの経済学」が示唆するのは、専門サービスにおいて才能の僅かな差が、需要と報酬に巨大な差を生むという事実です。顧客(企業の法務部門含む)は二番手の弁護士二人よりも、一人の最高の弁護士を求めるため、個人の才能は代替不可能なのです。1981年の論文であるにも関わらず、その本質は、2020年代後半に差し掛かろうとしている今、さらに輝いていると感じます。

“The phenomenon of Superstars… wherein relatively small numbers of people earn enormous amounts of money… seems to be increasingly important.” (比較的少数の人々が巨額の富を得るスーパースター現象は、ますます重要性を増している。) Sherwin Rosen, “The Economics of Superstars” (1981).

結論:組織に属しながら「個」として立つ

これら二つの理論は、中村弁護士の言葉が単なる精神論ではなく、職業構造の本質を突いた真理であることを示しています。ホール教授の理論は自由なキャリア形成を、ローゼン教授の理論は個人の代替不可能性を保証しています。組織内弁護士であっても、会社という看板に頼らず、一人の法律家としての個を磨くこと。それこそが、何者にも縛られない自由なキャリアへの唯一の道なのです。

引き続き、2025年も残り少し、2026年も皆様と一緒に学び続けていきたいです。

関連記事

組織成長を叶える 組織内弁護士の教科書丨迷うたび、読んでほしい
図表・データ | 組織内弁護士研究ノート® | 法務部とインハウス弁護士の金貨

補足情報

ゆる募:お悩み相談箱

法務部員・組織内弁護士としての大切なことや日々の悩みは、誰かに話すだけでも心が軽くなるものです。もし「取り上げてほしい」「ちょっと聞いてほしい」と思うことがあれば、どうぞ遠慮なくメールフォームからお寄せください。いただいたご相談は、できる限り丁寧に目を通し、少しでもお力になれればと考えています。

なお、法律相談に関しては直接対応いたしかねますので、お近くの法テラスにご相談ください。それ以外のお悩みや想いは、いつでもお待ちしております。あなたの声が、きっと誰かの力にもなります。

リーガルリスクマネジメントの教科書とは?

リーガルリスクマネジメントの教科書』(日本加除出版)は、2023年に出版された教科書です。リーガルリスクマネジメントという臨床法務技術を独学で学んでいただけるよう、心をこめて作成いたしました。きっと喜んでいただけると思います。

図表・データ | 組織内弁護士研究ノート® | 法務部とインハウス弁護士の金貨
渡部友一郎『攻めの法務 成長を叶える リーガルリスクマネジメントの教科書』(日本加除出版、2023)

***

ご相談・講演のご依頼などはこちらからご連絡を賜れますと幸いです。


(了)

※記事に関しては個人の見解であり、所属する組織・団体の見解でありません。なお、誤植、ご意見やご質問などがございましたらお知らせいただければ幸甚です(メールフォーム)。