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池田眞朗 名誉教授「現在の法学部出身の法務部員は、ほとんどの方が、学説・判例の解釈論偏重の教育で育っている」丨メモしたい、法務の言葉

1. コーナーの狙い

Problem Statement (問題の所在)

法務部員・組織内弁護士は、不確実性が高まる環境の中で、社内のクライアント(依頼者、経営者、事業部門など)の意思決定を十分な情報に基づいて支援する役割を担います。 しかし、日々の業務で何をすべきか迷うときもあります。

ソリューション

定期的に、法律雑誌などで見つけた「珠玉の言葉」を紹介します。 ノートやスマホにメモすることで、自分を鼓舞したり新しい気付きを得るきっかけになることを期待しています。

想定する読者

法務部門の方(とりわけ組織内弁護士・インハウス弁護士)、外部弁護士の方、ロースクール生・司法修習生の方

2. 今回の「メモしたい、法務の言葉」

現在の法学部出身の法務部員は、ほとんどの方が、学説・判例の解釈論偏重の教育で育っている

池田眞朗 慶應義塾大学名誉教授

池田眞朗「契約から展開するビジネス法務学」会社法務A2Z 2025年3月号56−57頁

池田先生の連載は(私も愛読している)3月号をどうぞご高覧ください。

3. 中堅組織内弁護士による分析(個人的な考え)

まず、池田眞朗先生(慶應義塾大学名誉教授)のご指摘である「現在の法学部出身の法務部員は、ほとんどの方が、学説・判例の解釈論偏重の教育で育っている」という言葉は、批判ではなく、その先に続く「解決方法」を提示するための問題提起だと理解しています。

私も2020〜2021年にかけて、渡部友一郎「組織内弁護士から見た電子契約の展望:特集 武蔵野大学大学院法学研究科 博士課程開設記念連続フォーラム」武蔵野法学15号(2021)41−54頁などの場で大変お世話になり、その際に池田先生からこうした示唆をいただく機会がありました。

「解決方法」を提示できる法務部員になるためのOJTとリカレント教育の重要性について、池田先生の問題提起がめざすのは、単に「学説・判例の解釈に偏りがちだ」という批判ではなく、そこからいかに実務的な問題解決能力を身につけるかを追求することです。

企業内で必要な能力は、法的リスクを洗い出した上で、「では具体的にどう解決するか」という方法論を提示できる力にほかならず、そのためには企業独自のOJTやリカレント教育(継続的な学習機会)が不可欠です。

この点、「実践の中の理論(Theory in Practice)」に関する引用数も顕著に多い古典的研究である ArgyrisとSchön(1974)の研究が示すように、専門家に求められるのは「座学の理論(Theory)」のみならず、行動を通じて具体的な問題解決につなげる「実践知(Practice)」を獲得することであるとされています。すなわち、単に学説や判例を解釈する能力にとどまらず、企業の現場で生じる複雑なリスクをどうマネジメントし、どのような解決策を提示できるかが、真の専門職としての力量を左右するのです。企業内OJTやリカレント教育を活用して解釈論から実務対応へ繋げられる人材を育てることは、法務部員が組織に貢献する力を飛躍的に高める鍵となるでしょう。

拙著『リーガルリスクマネジメントの教科書』でも指摘した通り、「リスクがあります(完)」と伝えるだけでは問題解決につながりません。むしろ、そのリスクをどうコントロールし、どんな選択肢を提示できるのかが法務部門の腕の見せ所です。その点で企業法務は、過去25年以上、予防法務の視点から大学やロースクールの法学教育のみでは即戦力にならない人材(私自身を含む)を育て、日々の問題解決に取り組んできたという歴史があります。

もっとも、現状では企業内OJTに多くを委ねすぎる傾向があるのも事実です。とりわけ、法学教育で「解釈論」は学んでも、実務に即したリスク管理や解決策提示のスキルは、まだまだ企業任せになりがちです。こうした流れに対して、池田先生の「解釈論偏重の教育」に関する言葉は、実務と学問の融合を強化すべきだという重要なメッセージでもあると受け止めています。

企業のOJTとリカレント教育をバランスよく活用しながら、「リスクの指摘から、解決方法の提示まで」を担える法務人材を育てていくことこそが、今後の法務部門の大きな使命だと感じます。これらの取り組みを通じて、学問的知見と実務的経験を両輪で生かしながら、企業が求める問題解決型の法務部員を輩出していくことが望まれるでしょう。

上記に関しては、実は、拙稿が臨床法学教育学会での報告(2024年)が学会誌に掲載される予定ですので、改めてご報告予定です。

<ゆる募>「お悩み相談箱」

法務部員・組織内弁護士としての大切なことや日々の悩みは、誰かに話すだけでも心が軽くなるものです。もし「取り上げてほしい」「ちょっと聞いてほしい」と思うことがあれば、どうぞ遠慮なくメールフォームからお寄せください。いただいたご相談は、できる限り丁寧に目を通し、少しでもお力になれればと考えています。

なお、法律相談に関しては直接対応いたしかねますので、お近くの法テラスにご相談ください。それ以外のお悩みや想いは、いつでもお待ちしております。あなたの声が、きっと誰かの力にもなります。

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[リーガルリスクマネジメントの教科書とは?]

リーガルリスクマネジメントの教科書』(日本加除出版)は、2023年に出版された教科書です。リーガルリスクマネジメントという臨床法務技術を独学で学んでいただけるよう、心をこめて作成いたしました。きっと喜んでいただけると思います。

渡部友一郎『攻めの法務 成長を叶える リーガルリスクマネジメントの教科書』(日本加除出版、2023)

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ご相談・講演のご依頼などはこちらからご連絡を賜れますと幸いです。


(了)

※記事に関しては個人の見解であり、所属する組織・団体の見解でありません。なお、誤植、ご意見やご質問などがございましたらお知らせいただければ幸甚です(メールフォーム)。

渡部推薦の本丨足りない、は補えばいい