
1. コーナーの狙い
2. 今回の「メモしたい、法務の言葉」
成長志向(Growth Mindsed)を持つ法律家を求めている
アンソニー・ルナ 日本アイ・ビー・エム株式会社 取締役常務執行役員(米国弁護士)
アンソニー・ルナ「Lawyer’s Evolving Role in a Fast-Changing World」ビジネス法務2025年3月号1頁
ルナ先生の執筆された全文は(私も愛読している)ビジネス法務の3月号をどうぞご高覧ください。
3. 中堅組織内弁護士による分析(個人的な考え)
はじめに、「グロースマインドセット(成長志向)」とは、何でしょうか。
- グロースマインドセットとは、「人間の知能や能力は努力や学習を通じて伸ばせる」と信じる考え方を指します。
- 対照的に、「才能は生まれつき固定的で、失敗は避けるべきもの」という考え方はフィックスマインドセット(固定志向)と呼ばれ、成長の機会を失う要因になるとされています。
アンソニー・ルナ先生は、私が個人的に最も尊敬するインハウスロイヤーの一人です。彼が提唱する「成長志向(Growth Mindsed)を持つ法律家を求めている」という言葉には深く共感します。
私自身、法律事務所時代には失敗を恐れるあまり、新しい提案や挑戦に二の足を踏んでしまうことがありました。しかし、Airbnbに移った際、心理的に安全な環境でさまざまな挑戦ができ、むしろ「失敗からこそ学ぶ」文化を肌で感じることができました。そのおかげで、一度のミスを単なる痛手ではなく、大きな学びの機会に変える心構えが自然に身についたのです。
アカデミックな裏付けもあります。DweckとLeggett(1988)の研究によれば、人が自分の知能や能力を「可変的」と捉えるマインドセットを持つほど、新たな挑戦に対して積極的に取り組み、失敗を学習の機会として活かしやすいことが示唆されています。
これは、未知の法領域や国際案件などに踏み込む際にも、たとえ一時的なミスや迷いがあっても「自分はまだ成長できる」と考えられるため、柔軟な発想や変化への対応力が高まるというわけです。一方で、才能や知能を固定的と捉えるフィックスマインドセットを持つ場合、失敗を「自分の限界が露呈した」と捉え、リスクを伴う挑戦を避けがちになり、専門領域やスキルの広がりを阻む恐れがあります。
弁護士業務において未知の世界に進む勇気を持つことは、まさにDweckらの指摘するグロースマインドセットが支える重要な心構えだと言えます。
グロースマインドセットを持つ弁護士は、あたかも未知の土地へ旅立つ旅人のようなものです。まだ見ぬ場所へ行くには、時に迷子になり、現地の言葉や文化に戸惑うこともあるでしょう。しかし、それらの体験をすべて「新たな発見」や「糧」と捉えられる旅人は、初めての国でも多くの出会いや学びを得て、大きく成長できます。
一方で、「自分の知っている範囲から出たくない」「道に迷うのが怖い」と思う旅人は、いつも同じ場所を行き来するばかりで、見る景色も変わらず、新しい知識や経験はなかなか増えません。つまり、「旅先での困難は避けたい。リスクを伴う行動はしない」という姿勢(フィックスマインドセット)では、成長の機会を失ってしまうわけです。
グロースマインドセットを持ち、「旅に出たからこそ味わえる失敗や成功を、どちらも学びに変える」という姿勢が、弁護士としての視野を広げ、より柔軟かつ多角的な問題解決を可能にします。IBMのリーダーであるルナ先生の言葉に深く共感します。
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[リーガルリスクマネジメントの教科書とは?]
『リーガルリスクマネジメントの教科書』(日本加除出版)は、2023年に出版された教科書です。リーガルリスクマネジメントという臨床法務技術を独学で学んでいただけるよう、心をこめて作成いたしました。きっと喜んでいただけると思います。

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(了)
※記事に関しては個人の見解であり、所属する組織・団体の見解でありません。なお、誤植、ご意見やご質問などがございましたらお知らせいただければ幸甚です(メールフォーム)。
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