1. リーガルテック業界に一定の衝撃を与えたグレーゾーン解消制度の照会書(開示されていなかった)本体の開示決定
2022年8月8日付けで、法務省から、上記の行政文書の開示決定を受けました。
何よりも大切なことですので冒頭に述べますと、依然として新型コロナ等により大変な職務環境(リモートや出社制限含む)が続き、また、部署もご多忙の折、行政文書の特定及び開示について貴重なお時間を割いてくださった法務省のご担当者様(担当課・開示窓口)には、心から御礼申し上げます。本来は直接お礼を申し上げるべきところですが、改めて、この場を借りて、研究のご支援に感謝です。
2. 請求前に考えていたこと
さて、新聞等でも取り上げられたため、リーガルテック業界に一定の衝撃を与えたこちらのグレーゾーン解消制度の照会結果。法務大臣に当てられた当該「照会書」本体については、申請者が照会書の開示を「非開示」にしていたため、法務省が要旨としてまとめた内容しか、現時点では、公開されていません。
一方、月刊登記情報において「リーガルテック」の月次連載(例1、例2、例3)を持つ筆者としては、どのようなサービスを企図して提出されたのかを研究したいという好奇心を抱きました。
また、研究対象のコアではありませんが、文書の書き方をみれば、誰が(法律家 or 非法律家)、どのような意図(既存のリーガルテックへの牽制?それとも純粋に自社サービスの確認?)で照会書を提出したのかについて、もしかしたら糸口があるかもしれないということで開示をお願いしました。
3. 開示文書(2点)
(*)上記の行政文書のうち、官吏の御氏名も開示されておりましたが、決裁された個人のご氏名は研究とは無関係な情報であるため、私の方でPDF墨塗り加工を追加しております。その他に手を加えた箇所は一切ございません。
4. 簡単な所感
法律家関与説:多くの法律家が感じるように、こちらは少なくとも「法律家(弁護士かはわかりません)」や「公文書」を起案する経験がある方が、起案されたものであるということが推測されます。「乃至(ないし)」(第1号乃至第5号と書くと、第1号から第5号という意味になります)という文字、「以下、…という」という表現など法律家・公文書作成以外のビジネスシーンでは用いない記述が書面に認められるためです。
ナンバリングが法律家としてはユニーク説:お気づきの法律家の方もいらっしゃるように、上記の通り、法律家のような文言は多くあるものの、ナンバリングが、弁護士(訴訟等)や行政文書のルール(一般的な公用文では、1、(1)、ア、(ア)の項番・段落番号と続きます。)と異なり「(B)」「(i)」などが用いられています。
これがなにか決定的な推論を導くわけではありませんが、このナンバリングは(私に誤解があれば恐縮ですが)一定程度に独特であるため、似たようなナンバリングを文書に用いられている方が起案されている可能性があるかなと思いました。
法人説:「当社」とあること、また、黒塗りされておりますが、1頁目の黒塗りスペースを見ると、法人住所・法人名・代表取締役◯◯[ご氏名]・代表印の4点セット?なのかなと勝手に想像しておりました。微妙に下の文字から字数もカウントできてしまうということは公然の秘密です。
法務省・経済産業省の事前相談はない:行政文書開示請求において、今回の申請にあたり、グレーゾーン解消制度をより効果的に用いるために助言・折衝にあたってくださるヘルプフルな経済産業省のチーム様と法務省の担当チーム様との間で折衝・協議があったのかについて「行政文書の有無」という論点において確認したところ、法務省のご担当者様からは「事前協議はなく、いきなり提出された」とのご示唆がありました。事実、法務省・経済産業省間での本件に係る協議や交渉があれば、議事録やメールなどは行政文書の定義に該当しますが、今回は、そもそもいきなり出されたのでそのような行政文書はないとのことでした。
仮にこれが事実であるとすると、巷で言われている通り、「白」を狙ったものではなく、「玉虫色」の回答を狙いに行ったという可能性も否定できないと思います。
ここは提出された方のご主観なので部外者は憶測でしか物を述べられませんが、他社への悪意があったというところまで推認できるかと言うと色々なご事情があったのかもしれません(例えば、申請者はコンサーバティブな会社様で、法務が「できない」といったが経営陣が「他社もやっているではないか」と納得せず、仕方なく、顧問弁護士とグレーゾーン解消制度の照会書を作って提出し、結果をもって、経営陣に「ほら、リーガルリスクがあると法務省さんも仰っています」と言いたかったシナリオもあるかもしれません)。私自身は申請者については存じ上げませんが、リーガルテックの中の方も界隈の方も、どなたも情報をお持ちではないようであり、謎に包まれているといっても過言ではありません。
さいごに
現在、「弁護士法第72条とリーガルテックの規制デザイン」という論説の執筆を終え、投稿先を検討しております。自由と正義への寄稿に挑戦したものの、自由と正義の編集委員会からは、今回の掲載は難しいとのお返事がございました(お忙しい中、拙稿にお目通しいただき、誠にありがとうございました)。また気持ち新たに、今後出てくる大手様がご提出されると新聞報道で承っているグレーゾーン解消制度の結果なども踏まえ、論説をさらに充実させてまいりたいです。 【2022.9.23 追記:その後、ビジネス法務様から22年12月以降に発売される掲載号において論説をご掲載くださる内諾をいただきました。心から感謝申し上げますとともに、今後、議論が進んで行くと予想される「業界団体の自主規制案」や「弁護士ドットコム様が照会中の16類型別グレーゾーン解消制度の結果」などの最新の情報も踏まえつつ、原稿をブラッシュアップして、少しでも後続の研究にお役に立てるような論説に磨き込みたいです。浅学菲才ですが、引き続き、21年12月〜の研究を形にできるよう努力いたします。もし当該議論にご興味がある方がいらっしゃれば、22年冬以降に刊行されるビジネス法務様をご高覧ください。またこちらのブログでもUpdateいたします。】
引き続きご指導どうぞよろしくおねがいします。
(補足) 2022年7月8日付の法曹無資格者(*)による契約書チェックサービスの行政文書もご参考までに下記にございます
(*)筆者が好む表現ではなく、照会書・回答書の文言をそのまま用いております。
(了)
※記事に関しては個人の見解であり、所属する組織・団体の見解でありません。なお、誤植、ご意見やご質問などがございましたらお知らせいただければ幸甚です(メールフォーム)。