
◯✕ 問題<正解は末尾>
問1 次の文は正しいか?― 著者は「イノベーションは爆発的な技術革新でなければ価値を生まない」と主張している。
問2 次の文は正しいか?― Heidi Gardner の研究によれば、複数部門が協働したパートナーは単独で業務を遂行するパートナーよりも顧客1社当たりの年間売上が約3倍になる。
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デスゲファノ教授は、「新たな価値方程式」を提示し、イノベーションを実践する姿勢が弁護士‐クライアント関係を質的に変革すると論じます。価値は「提供利益-コスト」で測られるが、法律サービスでは便益の多くが主観的で計量しにくいと前置きし、協働イノベーションが持つ非線形のリターンを強調します。
デスゲファノ教授によれば、価値創出の鍵としてABCモデルを提唱します。A(Attitude)は「小さな改善を偉大に行う」TNT思考、B(Behavior)は実際のイノベーション過程で身につくプロジェクト管理・共創・リーダーシップなどの行動変容、C(Culture)は小規模な試行錯誤を組織内外に波及させる「ボンファイア式」の協働文化です。これらを実践する弁護士や事務所はクライアントとの信頼が深化し、パネル選定や案件獲得で優位に立てると結論づけています。
ABCモデルとは?
A=Attitude(態度)
「Great things done small」の精神で、革新を巨大プロジェクトと捉えず「TNT=Tiny Noticeable Things(小さくても顧客が即座に価値を体感する改善)」の連鎖と見る姿勢を養います。例として、法務ポータルの簡素化やオフ・ザ・クロックの問題探索ミーティングなど、わずかながら顧客体験を向上させる試みが挙げられます。こうした態度転換が弁護士と企業を「特別なビジネスパートナー」に格上げし、パネル選定や新規案件への招待という形でリターンを生みます。
B=Behavior(行動)
「TNT=Tiny Noticeable Things(小さくても顧客が即座に価値を体感する改善)」を実践に移す過程で、弁護士は C.O.S.Tスキル(プロジェクト管理・テクノロジー活用・サービス志向・組織理解)を始めとする協働的創造力を体得します。16週程度のイノベーションサイクルを多職種・多世代チームで経験すると、エンパシー、成長志向マインドセット、文化的コンピテンシー、謙虚さ等の「ソフトだが難しい」能力が自然に鍛えられ、問題発見→仮説検証→プロトタイプ作成→ユーザーテストという行動パターンが習慣化します。Gardnerの研究が示すとおり、こうした協働行動は案件単価を押し上げ、パートナー個人の売上も跳ね上がります。
C=Culture(文化)
行動変容を組織に定着させるには「ボンファイア式」文化醸成が要です。まず小人数のチームが成功例(小さな焚き火)を作り、その炎と笑い声で周囲を引き寄せます。これにより「コラボレーションが当たり前」という空気が下層から上層へ浸透し、従来の「仲良しだが縦割り」の同僚意識を、実質的な共同創造文化へ置き換えます。変化は緩やかでも、クライアントは「共創姿勢」を高く評価し、案件数・リテンション・紹介率といった指標で事務所に利益を還元します。
以上のデスゲファノ教授による「ABCモデル」を回し続けることで、弁護士は「価格競争」ではなく「価値協創」の舞台で差別化を図り、長期的にクライアント・リーダーシップ優位を確立できると結論づけられています。
<本日の答え合わせ>
◯✕ 問題
問1 次の文は正しいか?― 著者は「イノベーションは爆発的な技術革新でなければ価値を生まない」と主張している。
答 ✕
理由 本文ではイノベーションを「TNT=Tiny Noticeable Things(小さくても利用者が価値を感じる変化)」と定義し、クライアントが求めるのは漸進的で実務的な改良であると説いているため誤りです。
問2 次の文は正しいか?― Heidi Gardner の研究によれば、複数部門が協働したパートナーは単独で業務を遂行するパートナーよりも顧客1社当たりの年間売上が約3倍になる。
答 ◯
理由 本文でガードナー教授の調査を引用し、異なる部門と協働することでクライアント当たりの年間収益が3倍に伸びる事例を示しているため正しいです。
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(了)
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毎週日曜の朝に更新し、日本では未翻訳の名著に光を当てます。
著者ミシェル・デステファノ氏はマイアミ大学ロースクール教授であり、ハーバード・ロースクールのエグゼクティブ教育プログラムでも教鞭を執る法律教育者です。米国法曹協会からLegal Rebelに選出され、フィナンシャル・タイムズでも「最も革新的な弁護士」トップ20の一人と評価されています。
現在、Airbnbのグローバル法務で各国のリーガルテックに触れる中で、本書のポイントを自分なり取捨選択して謹んで共有したいと考えました。学びの途上として整理した私なりのメモを、毎週日曜朝に全12回でお届けします。
本連載を最後までお読みいただければ、法律事務所でも企業でも「新しい時代の法律家」に求められる視点をデスゲファノ教授から学べると思います。本書から共に学ぶ時間を、私自身も楽しみにしています。