
基本情報
日本弁護士連合会『自由と正義』2025年5月号65−66頁
電話の(相手の同意を得ていない)録音に関して、裁決の公告(処分変更)に掲載されていた事例で目を引くものがありました。
(イメージとしては第一審にあたる)原弁護士会である第一東京弁護士会の判断が、(イメージとしては第二審にあたる[正確には不服審査請求])日弁連懲戒委員会により変更されていたものです。
第一東京弁護士会 会話の無断録音が適法なものとして許容されるためには、「公益を保護するため、あるいは著しく優越する正当利益を保護するためなどの特段の事情が存する」ことが必要であると判断する。
懲戒委員会「弁護士の活動においては、証拠の保全が必要となる場面が多く認められ、証拠の保全を目的として会話を録音することが弁護士として、正当な業務行為に当たると解される場面が相当程度ある」と疑問を呈する。
懲戒委員会(あてはめ)「(本件では)懲戒請求者の発言を保全するためなどであって、不当なものではなく、さらに、録音に至る経緯についても不適切なところはない。」
懲戒委員会本件において、弁護士倫理上非難されるのは、録音された通話を懲戒請求者の承諾なく、報告書にまとめて裁判所に提出した行為であって、通話を録音した目的や経緯が不当・不適切なものでない限り、通話の録音が無断で行われたとしても、録音した行為自体を弁護士職務基本規定第5条に違反するとし、弁護士としての品位を失うべき非行であると評価することはできない。
結局、どういうこと?
本件の弁護士は、会社を解雇された依頼者を支援する目的で、依頼者の元同僚に電話をかけ、依頼者の会社や上司に関する情報を収集していたようです。
依頼者の元同僚は現在も同じ会社で勤務しているため、万が一、会社・上司に対する否定的な考えや個人的な好悪(自分も嫌っていることなど)が会社や上司に伝われば、大きな不利益を被りかねません。
問題となったのは、電話の録音自体ではなく、通話相手の同意を得ないまま、その内容を裁判所に開示した行為でした(下記によれば『懲戒請求者が上司を快く思っていないことがわかる部分を記載した報告書』という部分)。
想像してみてくだしさい。あなたは、「会社には絶対に言わないでください」と念を押して、安心して社内の事情を話していたところ、思わず「同じ法務部の役職者が嫌いだ」と口にしてしまった。その発言が録音されたうえ、報告書に転記されて裁判所へ提出されてしまった。そして(公告には明記されていないものの)結果的に自分の雇用主(会社と悪口を言った当該役職者)にも知られてしまったとしたら、あなたは、非常につらい思いをするのではないでしょうか。
第一東京弁護士会(原弁護士会)の判断
下記はこちらのウェブサイトから敬意をもって引用させていただきました。
懲 戒 処 分 の 公 告
第一東京弁護士会がなした懲戒の処分について、同会から以下のとおり通知を受けたので、懲戒処分の公告及び公表等に関する規程第3条第1号の規定により公告する。
記
1 処分を受けた弁護士氏名 ◯◯◯◯
登録番号 ◯◯◯◯
事務所 東京都◯◯◯◯
◯◯法律事務所
2 懲戒の種別 業務停止2月
3 処分の理由の要旨
被懲戒者は、A会社を解雇されたBの依頼を受け、A社に対して解雇無効等確認請求の訴訟を提起したところ、2022年4月27日にBの同僚である懲戒請求者から電話で事情聴取をした際、無断で会話を録音し、懲戒請求者(注:依頼者Bの同僚さん)が会話内容をA社に知らされることを拒否していたにもかかわらす、録音の一部を反釈して懲戒請求者が上司を快く思っていないことがわかる部分を記載した報告書を作成し、同年12月20日、懲戒請求者(注:依頼者Bの同僚さん)に無断で証拠として裁判所に提出して懲戒請求者(注:依頼者Bの同僚さん)の秘密を漏洩した。
被懲戒者の上記行為は弁護士法第23条に違反し、同第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。
4処分が効力を生じた日 2024年9月3日
2025年2月1日 日本弁護士連合会
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(了)
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