大串嘉誉先生(弁護士・大手商社)「リスクを取る判断ができない法務は要らない…法律事務所で代替可能だからである」丨リーガルリスクマネジメントの教科書丨メモしておきたい言葉だち

1. 本日のピックアップ

中央経済社様の「ビジネス法務11月号」からピックアップ。

大串嘉誉先生(弁護士・大手商社)による―「リスクを取る判断ができない法務は要らない…法律事務所で代替可能だからである」―を謹んでピックアップしました。

  • この言葉を見て「そうだ、そうだ」と思った皆様に対して、私は、個人的に、『危ないかも!』と、小学校の登下校の道に置いてあった「飛び出し注意」の黄色の看板のように、そっと、謹んで、注意喚起をしたいのです。その理由は二つあります。
  • まず第一に、リーガル部門、そしてそこに所属する我々法務部員は、ビジネスの意思決定を行う主体ではないという事実を、改めて強調したいと思います(事業部を兼務している執行役員などの特殊な状況を除きます)。私がDeNAに在籍していた頃、もっとも大きな勘違いをしていたのがこの点です。事業部門の契約交渉に手を挙げて同席し、様々な交渉の場面に立ち会ううちに、あたかも自分自身が契約書の内容や条項修正について、主体的にリスク判断を行い、その決定をしているかのような錯覚に陥っていました。
  • しかしながら、上記で述べた通り、また拙著『リーガルリスクマネジメントの教科書』でも繰り返し述べているように、リーガルリスクマネジメントにおいて重要なことは、法務部員がビジネスジャッジメントを行うことではありません。重要なのは、法務部員が「十分な情報に基づく意思決定」の支援を行い、最終的なビジネスジャッジメントの責任を事業部門に委ねることです。この混同が起きると、事業部門が最終的な意思決定を行う責任の所在が曖昧になり、リーガルアドバイスと個人的な意見が混在してしまい、企業全体の健全な意思決定プロセスを阻害する結果となりかねません。
  • 第二に、大串先生の玉稿を丁寧に読むと、私に誤解があれば恐縮ですが、「リスクを取る判断ができない法務」という表現は、「事業部門がリスクテイクをできるようにするための十分なオプションを提示できない法務」ということを指しているもの、と拝察しております(違っていたら申し訳ございません)。リーガル部門は意思決定を行わないわけではありません。例えば、リーガルリスクを特定し、分析し、評価したうえで、それに基づくリスク低減策や対策案を事業部門に対して示す際には、どう示すかの意思決定が求められています。大串先生の原稿全体を通して感じたのは、これはあくまでも「リーガル部門としてリスクを管理し、リスクテイクを支援できる選択肢を示す意思決定を行うこと」を求めているのであって、リーガル部門がビジネスジャッジメントを行うべきだと言っているわけではない、ということです。
  • 皆様も、私がかつて失敗していたように(またそれを有害だとも理解していなかったように)、若手の頃は事業部との一体感から、自分自身がビジネスジャッジメントを行っているかのような錯覚に陥ることがあるかもしれません。しかし、私たちの役割は、あくまで事業部門が十分な情報に基づいて意思決定を行えるように支援することです。事業部門が最終的な責任を負って意思決定を行うという原則を忘れてはいけません。また、個人的な意見を求められた場合には、リーガルの立場を離れて個人的見解であることを明確に伝え、リーガルアドバイスとして受け取られないように注意を払うことが重要です。これによって、企業全体の意思決定プロセスがより健全で、透明性のあるものになると信じています。

お時間があれば下記の関連記事をご高覧ください。

2. 別室「お悩み相談箱」も受付中(投稿は以下から受け付けております)

※お寄せいただいた大切なご相談にはできるかぎり目を通しております。なお、法律相談は承っておりませんので、法律相談先のご相談は最寄りの法テラスまで、お願い致します。

[関連記事]

[リーガルリスクマネジメントの教科書とは?]

リーガルリスクマネジメントの教科書』(日本加除出版)は、2023年に出版された教科書です。リーガルリスクマネジメントという臨床法務技術を独学で学んでいただけるよう、心をこめて作成いたしました。きっと喜んでいただけると思います。

渡部友一郎『攻めの法務 成長を叶える リーガルリスクマネジメントの教科書』(日本加除出版、2023)

***

ご相談・講演のご依頼などはこちらからご連絡を賜れますと幸いです。


(了)

※記事に関しては個人の見解であり、所属する組織・団体の見解でありません。なお、誤植、ご意見やご質問などがございましたらお知らせいただければ幸甚です(メールフォーム)。

渡部推薦の本丨足りない、は補えばいい