学恩返し貯金(1):司法修習生の初任給から166ヶ月間、毎月3万円を積み立てた500万円を、学恩のある東京大学法学政治学研究科(ロースクール)に寄付させていただきました│紺綬褒章の追記 [2023.11.13]

2023年1月1日付の記事ですが、自分自身にとって「終活」の一部として、とても大切な出来事でしたので、トップに固定させていただいております。

写真:宍戸副専攻長とともに東大本郷キャンパスにて12月吉日撮影
許可:学内での撮影及び本掲載には、事前のご了解をいただいております。

(2023.4.10追記)東京大学法科大学院ローレビュー第17巻が刊行され、山本隆司研究科長の巻頭言及び巻末の御礼にて、学恩返し貯金による支援のご言及を賜り、随喜し、また、修了生として嬉しく思います。このような機会を与えていただき、重ねて、心からありがとうございます。

末尾になるが,ローレビューの刊行を支えてくださった方をさらに挙げさせていただきたい。本ローレビューの前巻までの刊行については,法科大学院制度の創設のために大きな役割を果たされた弁護士の柳田幸男先生のご支援を賜った(当時の井上正仁研究科長による「第4巻の刊行にあたって」最終段落を参照)。本巻の刊行からは,本法科大学院を2008年に修了された弁護士の渡部友一郎先生より,ご支援をいただけることとなった。渡部先生は,本法科大学院修了後も,本法科大学院の教育を思い準備を積み重ね,本ローレビューの刊行の意義を洞察されて,ご支援をお申し出いただいた。このように修了生のお力により,教育の理念が受け継がれることは,本法科大学院が理想とする姿である。柳田先生,渡部先生に,心よりお礼申し上げたい。

第17巻の刊行にあたって(山本隆司研究科長) http://www.sllr.j.u-tokyo.ac.jp/17.html

(2023.11.13追記)紺綬褒章

東京大学から官報を添えてご連絡を頂き、2023年11月13日、天皇陛下から紺綬褒章(Medal with Dark Blue Ribbon)を与えていただくことが決まった旨を知りました。身に余る光栄であり、改めて、皆様に感謝申し上げます。当時の投稿は下記のとおりです。

***以下本文***

1. ご報告の要旨

皆様、お健やかに初春をお迎えのことと存じます。

私事で恐縮ですが、166ヶ月(初任給)から毎月30,000円をコツコツ積み立て、弁護士としての学恩深き「東京大学 法学政治学研究科(法科大学院)」へ寄付する機会を頂戴しました

『東京大学法科大学院ローレビュー』の出版継続に活用されます(創設時の資金が本年度で尽きるタイミングと偶然重なった次第です)。

弁護士の今があるのは、学恩そして先輩・同輩の学友・後輩、ご指導ご鞭撻くださった皆様のおかげです。

本件において、東京大学法学政治学研究科 山本隆司研究科長・畑瑞穂専攻長・宍戸常寿副専攻長(順不同)におかれましては、研究・学務もご多忙のところ、ローレビューの出版継続をサポートする機会を与えて頂き、ご高配に深く御礼申し上げます

一足早い終活の如き雰囲気も漂いますが、上記に至るストーリー・個人的な想いは下記の通りです。お恥ずかしい駄文・長文です…もしご関心とお時間があれば、昔話とともに、ご高覧ください。

2. 2006年4月〜2008年3月(東大ロースクールの学恩)

2-1. 2006年〜2008年の頃の東大ロー

東京大学法科大学院(既修3期)入学当時、東大ロースクールの学年は300人(既修200名+ 1年先に入学された未修100名)の4クラス(1クラス75名)でした。

振り返れば、ロースクールの理念に共鳴した多士済々(元経営者・元社会人・元役人・法学以外のバックグラウンドの方々も大勢)、授業を含め大学院生活は活気に溢れていました。元社会人の方は、世間知らずの私達現役生にとっては「姉・兄」的な存在で、授業外でも大切なことを教わりました。自分も社会人となった今、職を辞し(収入を断ち)チャレンジしていた元社会人の方々には、心からの尊敬の気持ちを抱きます。自分には決してできない挑戦だと思うからです。

2-2. 授業と新司法試験の2つのプレッシャー

また、「東大は新司法試験対策をしない」と言明された高橋宏志研究科長(当時)の言葉通り、新司法試験科目ではなかった「エジプト民法」(必修科目:現代法の基本問題。なお、単位を落とすと卒業できず、新司法試験は受験できない!)を3年に猛勉強するなど、迫りくる卒業後の司法試験がある一方で、授業の予習復習もタフでハードなカリキュラムでした(寝ても覚めても1日13時間以上勉強していた思います)。

2-3. 当時の雰囲気に助けられたこと

しかし、幸いなことに、新司法試験に対する殺伐感・悲壮感はそれほどなく、むしろ(学生当時から「プロフェッサー」という渾名がつくような)同時代の秀才・英傑の同期らが自主ゼミを開催してくれて、高度な学び・勉強法を常に周りに分け与えてくれる恵まれた環境でした。私は、「これだけ優秀な人達の集団で、平均以上に喰らいついてポジショニングできれば、多分、合格するだろう」という安堵感もありました。

2−4. ロースクールに行って良かったか?

さて、今と当時では制度も少し変わりましたが(例:3年学部卒業→ロースクール卒業前の新司法試験受験 or 予備試験からの新司法試験)、「ロースクールに行って良かったか?」と聞かれたら皆様はどのようにお答えになるでしょうか。

私は、「多様な答えがあるかもしれませんが、私個人の場合には、東大ロースクールの2年間の学びは、その瞬間及び実務家になった後に総合的に振り返ると、法科大学院で学べて最高に良かったです。」と笑顔でお答えすると思います(人間の記憶は美化されるので、そのバイアスは割り引いていただけたら幸いです)。

  • 第1に、カリキュラムとして、労働法・租税法・国際租税法・WTO法(国際通商法)・金融商品取引法・ファンドと法など、司法研修所でも教わらない企業法務に必要な学問の基礎を学べたこと
  • 第2に、環境として、今でも尊敬する先輩・同期・後輩そして(先生・生徒という関係での)素晴らしい数々の恩師と出会えたこと

私の父母は大学の研究者であり、学問の道やキャリアに関して口出しする人ではありませんでした。見守りタイプの父が、私に学生時代にアドバイスしてくれたのは専ら「師を見つけなさい」という言葉でした。

このアドバイス通り、私は、東大ロースクールの2年間で、周りの人々の中から、(勝手に慕い、憧れ、真似したい)数え切れない師を先生・友人らに見つけることが叶いました。

なお、現在も、お会いする方々(自分の持たない・持ち得ない考え方・生き方・工夫・努力など色々な学びたいを部分を)こっそり「自分の◯◯の部分の師」と捉え続け、考え方や工夫を学んでいます

また同時に、「人を羨ましがるときは、その努力まで羨め」という言葉を大切にし、人間ですので私も誰かの華々しいご功績を耳にすると羨ましく想うのですが、その結果にたどり着くまでのその方の見えない努力を想像し、それに至らない努力量をまず顧み、浅はかな心持ちを反省するようにしております。

3.  2008年秋(司法試験合格して感謝できる心の余裕が生まれた)

3-1. 司法試験終了 でも 自習室で勉強のペースを緩やかに維持

無事に卒業し、司法試験も終わりました。司法試験が終わった後も、急に勉強は止めず「ルーティンを崩さないようにしよう」と、ほぼ無人の自習室で答案再現や司法研修所で必要な予習・復習をしていたのを思い出します。

3-2. 司法試験の合格発表(最前列)

いよいよ、司法試験の合格発表の日、列の1番前に並びました。

東大ロースクールの親友だった俣野くん(弁護士・西村あさひ)と2人で、祝田橋にあった法務省の旧庁舎前のゲートで待ち合わせました。時間になり、そろりそろりと最前列の私と俣野くんが掲示板に誘導され、視力の悪い自分は、自分の受験番号をくっきりと見つけた瞬間に、二人で抱き合って飛び上がりました。人生で最も深く歓喜し、最も高く飛び上がった瞬間だったと思います。

多くの司法試験合格者の方同様、数年間のプレッシャー(合格しないと人生で何もはじまらないという強い思い込み)から解き放たれ、涙し、そして、これまで余裕がなく気が付かなった様々な周りの人々の支えに、感謝の気持ちが湧き上がりました。冬の氷結により堰き止められた小川に、熱湯が流れ込み、一気に堰を切って水が勢いよく流れ出したかのように、感謝の気持ちが顕在化したのを鮮明に覚えています。

写真:宍戸副専攻長とともに東大本郷キャンパスにて12月吉日撮影

4.  2008年冬(ノブレス・オブリージュとの出会いと初任給)

4-1. 外国の弁護士の給与額の10−20%の寄付(喜捨)に驚く

そして、高揚感も冷めやらぬ新第62期司法修習生となる、たしか冬のことです。外国の弁護士の「ノブレス・オブリージュ」を何かの本で読む機会がありました(が記憶はぼんやりしています)。

当時、給与額の10−20%の寄付(喜捨:なお、数字はぼんやりした記憶に基づくため誤りがあるかもしれません)は自分には心理的にも現実的にも難しいが、月3万円なら続けられると考え、積立てをはじめるに至りました。

4-2. 学恩返し貯金開始―166ヶ月毎月3万円を貯めた結果

司法試験に合格し、司法修習生として頂いた大切な大切な「初任給」。

それは単に社会人1ヶ月の報酬ではなく、上記に述べた苦節もあった学問の積み重ねと、その積み重ねを支えてくださった恩師や学友含む多くの方がいて、いわば、自力ではなく、色々な方の御恩から滲み出た「頂戴したもの」でした。

初任給が印字された銀行通帳を見て「社会に出た(出させていただいた)」と喜びをかみしめた瞬間から、月日は流れ、約14年(166ヶ月目)。この冬、14年目(1年司法修習生+13年弁護士)の期間を経て、ついに、目標額に到達していました。500万円まで本当に長いコツコツの道のりでした。

「学恩返し貯金」は、私の性格上、達成するまで誰にも話すことなく(話したらやり遂げた気になるため)、気長に気長に、貯まるのを待ち続けました。本当に万感の思いです。

5.『東京大学法科大学院ローレビュー』( http://www.sllr.j.u-tokyo.ac.jp )

抜粋した画像の著作権等は
すべて The University of Tokyo School of Law に帰属します。
http://www.sllr.j.u-tokyo.ac.jp をご高覧ください。

米国のロースクールに倣い、母校東京大学法科大学院の学生主導で企画・運営されてきた論文等の研究成果を発表する刊行物です。

先輩・同期・後輩を思い出しても、ローレビュー編集委員に任命された方々は、”Top of Tops”…10指の成績超優秀者の方々ばかりです(到底、私は該当しません)。

編集委員であった尊敬する岩間さん(経済産業省で勤務されている優秀な弁護士)から、編集作業のご苦労(事務外注やソフトウェアの更新等のお金の使いみちについてヒントをいただきました)を伺えたことが、初期の着想に際し、大きかったと思います。

6. 2022年の今(浅学菲才の終活)

当時、努力はすれど、同期の秀才・英傑らに感心してばかりの学生だった私としては、恩師やTalentedで今も尊敬する先輩・学友らに引き上げてもらい、司法試験に合格して弁護士になれたと信じております(深謝)。

実務家となった今も、不得手や欠点が多く、私の得意分野は狭く限られており、たとえ上手く進んだ場合も周りの方々がその環境を整えてくださったおかげ、ということが大半です。これからも浅学菲才を謙虚に弁えて、周りの方々に対し、できる範囲のことで僅かですが貢献していきたいと願っております。

日本の未来の法学・法曹を支える後輩の方々のお役に立てば、冥利に尽きます。

写真:宍戸副専攻長とともに東大本郷キャンパスにて12月吉日撮影

7. おわりに(御礼)

最後に、本件の検討プロセスにおいて、多くの恩師や尊敬する法曹の先達からお話を伺い、自身の寄付等のご経験に基づいて多くの教示を頂くとともに、社会にも福祉にも大学にも、広く貢献されているご姿勢も学ばせていただきました。

量も質も、先達のご貢献には到底至りませんが、この学恩をひとまず私なりの「形」として母校の恩師・後輩らにお返しでき、いわゆる「終活」には早すぎるかもしれませんが、一つ人生のやりたかったことを(天寿と健康のあるうちに後悔しないよう)今、無事にやり終えた気がして、安堵した穏やかな気持ちでおります。

ここまで、私事であるにもかかわらず、駄文・長文の想いをお読みくださり、深く御礼申し上げますとともに、2023年も皆様にとって幸せのあふれる1年になりますことを願っております。

“Would have, could have, should have… Life is too short for what-ifs. Too short for unfilled daydreams.” 

写真:緊張しております…。

思い残すかもしれない学恩の返済を、1つ無事に終えることができました。なお、元本利息でいう元本の一部弁済のような心持ちでおり、今後も、できる範囲で貢献してまいりたい気持ちです。

2023年もどうぞ温かいご指導ご鞭撻をお願い申し上げます。引き続き、欠点も多く未熟な人間ではございますが、一層、精勤かつ謙虚な気持ちで研鑽を続け、多くの法務部門の方々・後輩(emerging lawyers含む)たちが一層輝けるような環境整備に寄与したいです。

2022.12.31/2023.1.1

渡部 友一郎

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(了)

※記事に関しては個人の見解であり、所属する組織・団体の見解でありません。なお、誤植、ご意見やご質問などがございましたらお知らせいただければ幸甚です(メールフォーム)。

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