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エントリの趣旨
東京大学公共政策大学院での105分授業が、対面ではなく、オンラインシステムすなわちZoomでの講義に変更されました。エントリ「【保存版】zoomによる教員側事前準備メモ」にZoomの事前準備や役立つリンクはまとめております。
このエントリは、既に105分(1コマ)を終えたゲスト講師が、今後、Zoomで授業をされる弁護士や先生方向けに、実際の授業前に、3つのチェックポイントを通じて、「大失敗」するZoom講義にならないためのTipを提供するものです。
個人のWish-Listであることにご留意ください
下記は個人の考えであり、講義にも様々なスタイル、理念、哲学がございます。そのため、下記はあくまでも自分がZoom講義を受ける学生の立場であったらこのようなエクストラな工夫がほしいなというWish-listです。
他方で、もともとインターネット企業にいることからZoomでの国際ミーティングになれており、多文化や必ずしも知識が一致しないグループで、いかに共通のゴールを定義して、一緒にゴールを達成するかという点はおそらく人よりも得意であると考えております。
また、「オンライン授業としてお手本のような講義をいただき誠にありがとうございます」と教授からは望外のフィードバックをいただいておりました。また、学生さんからも授業後にポジティブなフィードバックを多々いただきました。4月の東京大学公共政策大学院でのZoom授業の一体験を広くシェアしお役立ていただきたいと謙虚な気持ちで願っております。
チェックポイント1:伝えたいこと(ゴール)を「3行」にまとめられるか? 今どこにいるかを伝えられるか?
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Zoom=苦痛という原則から出発しよう
Zoomは苦痛だ。非常に苦痛である。
まず「Zoom=苦痛」という意味が瞬時にわからない場合、おそらく講師の方は、大変失礼ながら、
- 業務で使っている電話会議と同感覚という「ブラインドスポット(盲点)」にハマっているか;または
- 自分自身で、Zoomで他人が、こちらの様子を気にせず、一方的に話し続けるが無視も退出できない長時間(例:105分)を体験したことがない
可能性が非常に高い。
電話会議と異なり、自分は自由に発言できない。また、大学にもよるが基本的に通信量・料金の問題もあり、動画(カメラON)は推奨されておらずお互いの顔が見えない。さらに、電話会議と異なり、スタートとゴールが見えない大学の授業。Zoomを通じた苦痛は深刻に増大する。
しかし、Zoomの苦痛から逃れる方法は簡単だ。画面をOFFにしたまま、AirPodsやイヤホンで講師の音声を聞き流しながら、ネットサーフィンしたり、SNSを巡回していればよい。
この原理原則を理解できていないと、講義は「大失敗」する可能性が高い。
つまらない講義の苦痛がZoomで増大する理由
Zoomで講義をする場合、対面講義を念頭に置いた準備・スライドは捨て去られるべきと個人的には思っている。
なぜなら、対面の場合、アイコンタクトや学生さんの退屈そうな顔をみる五感を通じて、「つまらない」「意味がわからない」という無言のフィードバックを感じられる。また学生側も「つまんねーよ」という顔や「寝る」態度を通じて、明示または黙示の意思表示ができる。
しかし、Zoomの場合、そのフィードバックは0分〜授業終了まで、講師に伝わらない。学生側も「親指を下に向ける」ジェスチャーを講師に伝えられるものなら伝えたいが、画面がOFFである限り、そのコミュニケーションはなりたたない。しかも、Zoomのジェスチャーボタンに「親指を下に向ける」というものはない(賛否を問うマル・バツはある)。
「この講義で私は何を得られるんだ?」という問いに講師は3行で答える
以上に述べたとおり、楽観的な教員・講師の想像と異なり、Zoomの場合、PC画面や携帯画面を見つめ、聞いて集中を強いられる学生さんは「つまらない授業」の苦痛度が増幅される。
これを防止するには、常に「ゴール=105分後にもちかえってもらいたいこと=今自分がはなしていること」をDefineする必要がある。105分という旅を学生さんとZoomを通じてするのであれば、これは努力義務ではなくて、罰則の伴う法的義務であると思う。
この105分でゲスト講師として学生さんに持ち帰っていただきたいことを3行で示せないのであれば、おそらく準備中の講義内容は焦点がぼけているか、内容を盛り込みすぎのどちらかである(往々にしてあるのは後者)。
Zoomの苦痛さを取り除くのは、まばゆいくらいのゴールである。
私の工夫アイデア
- 事前配布物に「3行の講義の狙い」をCrystal Clearに記載する。
- 講義冒頭でこの105分で一緒にどのような旅を学生さんとしていきたいのか、スタート地点とゴール地点を明瞭に宣言する。
- 講義の途中途中で、ゴールと紐付けて、「インプット」「アウトプット」が授業の大目的をどのような形で実現する手段かを説明する。
- 学生さんが「3行の講義の狙い」を思い出せるように、ウォーミングアップを設ける。
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チェックポイント2:ボール占有率は「4:1」(8分話したら最低2分は教授・学生さんにボールをまわすイメージ)を想定してスライドを作っているか?
Zoom講義の価値は「資料読み上げ」にはない
このZoom授業、確実に「つまらなくなるな」ということが事前に分かる場合が多い。
スライドの枚数だ。
学生さんもZoom講義になれてくると、講義がうまい先生とそうではない先生の傾向を即座に掴む。
事前配布資料のスライドの文字がぎっしりであれば、見た瞬間に、学生さんは「あ、次回は講師がずっと一人でしゃべってて、あっちこっちに話がとんで、ときどき時間がないのに雑談をいれて誰も反応しなくて、質問時間もないまま、尻切れトンボで時間切れになるんだろうな」と思うに違いない。
例えば、90分しかない授業で60枚のスライドを用意している場合、絶望的な気持ちになる。
はっきりいってそのインプットが必要であれば、PDFで論文を配れば、論文にかいてあることをわざわざZoomでイヤホンを耳に聞く必要もない。むしろ、論文に書いてあることをスライドに小さな文字でコピペしてそれをZoomで話すだけであれば、いったいどこに授業の付加価値があるのだろうか。
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Zoomの価値は「学生さんあなた」と話せること
対面の講義と違うのは、Zoomでは、大勢の匿名の学生ではなく、少なくとも発言する方の「名前」がZoom上でわかることである。
つまり講師は、「田中さん」「周さん」「徐さん」「村上さん」といった「学生さんという人格をもったあなた」と直接言葉を交わすことができる。ここにZoomの魔法がある。
学生名簿(もらっていないのであれば絶対に招聘くださった先生にお願いして個人情報保護に同意し、氏名だけでももらうことをすすめる。)であらかじめ学生さんの名前を頭に叩き込んで、講師が会話をすることで、授業を通じた思わぬ意見・発見があるかもしれない。また、ボールを学生さんや招聘してくださった教授にまわすことで、Zoom全体が温まっていく。「名前と人格をもったあなた」と2人で話、それを教室全体に還元できる新体験なのである。
私の工夫アイデア=「あなたと話す」
- スライドが「Digestable」かどうか、自分の趣味ではなく、学生さんの視点から何度も何度も推敲すること
- 講師のメモ書き代わりのスライドは不要。なぜなら、Zoomはどうどうと手元をみていられるから講師も安心だ。読み上げるのであればそれをスライドにいれるのはやめよう。
- 学生さんのスマホからも小さな字は見えない。
- 「いったんここでPause(ポーズ)します」と電話会議と同じく、こまめにタイムラインにそってポーズをいれよう
- そして、「ここまででわからない点があればおしえてください」「名簿をみてXXさん、ここまでの点を要約してくださいとお願いしたら要約できそうでしょうか。どのあたりに不安がありますか?」「◎◎先生、ここまでで何かフィードバックやインプットがあれば教えて下さい」など強力なフレーズが沢山あります。
- 「私も参加している」と思えるような、「4:1」(しかしそれを意識してもやはり講師が話しすぎてしまう)くらいの控えめさでボールを全チームにまわしていきましょう。
チェックポイント3:サイコロジカル・セーフティ=自分のバイアスに気づいて、一期一会でも学生さんが安心して参加できるZoom空間を講師が作る
3−1:「あなた誰?」
ゲストスピーカーになる場合、学生さんにとってはもしかしたら「あなた誰?」という場合もあります。
スライドや講義に、自己紹介はもちろん、「3行で伝えたいこと」と同じですが学生さんにコミットしたいことがあればきちんと開示して宣言すべきです。
私の場合、「自己紹介」は「授業の目的」に合致する部分のみをお伝えします。大切なことは、なぜ貴方が講師とよばれており、105分をつかって「どう貢献できるか?」ということを透明性をもってお話することです。XXXXXという経験から今日の狙いである「YYYY」を実務経験と併せて説明できる、とかです。
Zoomでは、教壇と異なり、「対等性」がインターフェースとして組み込まれています。したがって、きちんと挨拶し、自分から積極的に開示し、コミットし、オンラインを通じて「あなた」と授業をしたいです、という姿勢で望むことが重要と考えております。
3−2:「皆様異なる環境で聴いていることを承知しています」と宣言する(重要)
冒頭に「単一の教室と異なりそれぞれが異なる環境で、中には両親がご飯をたべているリビングで、中にはシェアルームで、など双方向で発言できない環境にいる方もいるとわかっています。ですので話せない場合はチャットで「今日はなせないのです」と遠慮なくチャットしてくださいね」とコミットする。
これは大学院の授業アンケートで東大に寄せられた声とのこと。
私も、事前に教授がシェアくださらなければ、ブラインドスポットでした(全員が一人暮らし、一人部屋があるとはかぎらない)。
ですので冒頭宣言したところ、実際に授業でも3名くらいの方が心配せずに「実は声が出しにくい環境です」とZoomのチャットで答えてくださいました。うれしかったです(仮にそれが本当でないとしてもきちんと当てたらリアルタイムでチャットすることが聞いているという証拠だし、そこは学生さんを信じたい)。
3−3:Zoomでは「対等なインターフェース」=教壇の上からのコミュニケーションを踏襲するとサイコロジカルセーフティは確保されない
Zoomを通じて、教室最後尾にすわっていた学生さんは、はじめて、教授や講師の顔をでかでかとスクリーンやスマホ画面に見て、スライド資料も流れていくという体験をしています。
そのような疑似1対1の環境では、「人間性」を尊重するコミュニケーションのインターフェースがZoomに合致しています。
サイコロジカルセーフティを確保する教員のフレーズ
(教室)「はい、手を上げた君」→(Zoom)「〇〇さん、よろしくおねがいします」
(教室)「質問あるひとは手を上げて」→(Zoom)「画面にチャットというボタンがあると思います。私個人宛でも全体にでも、いまから2分ほど時間をとるので質問を書いて送ってください。」
(教室)「(学生の質問に回答する形で)XXXとなります。はい他にありませんか?」→(Zoom)「◎◎さん、こんにちは。これは鋭い質問ですね。XXXXとなります。◎◎さん質問ありがとうございました。」
(教室)「(あてられた学生が回答しない)じゃあ、次」→(Zoom)「◎◎さん、◎◎さん、聞こえておりますでしょうか。もし現在声が出せない環境で講義をうけていたら、チャットでそのように一行教えて下さい。冒頭コミットしたとおり、みなさまがそれぞれ違った環境で受講しているのはわかっていますので、その旨、教えて下さい」
教室)「(あてられた学生が回答しない)じゃあ、次」→(Zoom)「◎◎さん、今日は、声が出しにくい環境にいらっしゃるのかなと思っています。チャットで考えを2−3行で書いてもらえますか?その間、次のかたをあてていますね。」
まとめ
Zoom=苦痛、Zoom=より対等性の現れるインターフェースという原理原則を忘れなければ、きっと、成功はしなくても、学生さんの負担を減らす、インタラクティブで、相手を尊敬し、サイコロジカルセーフティが確保された温かい授業がもっともっと実現できると考えております。
最後に有益な東京大学のZoom含むオンライン講義用のポータルサイトのリンクもはりつけておきます。
事前準備メモ(最新版リンク)
- エントリ「【保存版】zoomによる教員側事前準備メモ」
- オンライン授業・Web会議 ポータルサイト@ 東京大学:https://utelecon.github.io/
ご不明な点やお役に立てることがあればどうぞお知らせください。
(了)
※記事に関しては個人の見解であり、所属する組織・団体の見解でありません。なお、誤植、ご意見やご質問などがございましたらお知らせいただければ幸甚です(メールフォーム)。
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