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法務の談話室 [12/13]丨集団間の葛藤とその解決法:法律家が学ぶべき心理学の知恵

集団間の葛藤とその解決法:法律家が学ぶべき心理学の知恵

私たち法律の専門家は、日々の業務の中で、知らず知らずのうちにさまざまな「集団」の間に立たされていることに気づかされます。

例えば、弁護士であれば弁護士会、さらに個々の事務所や所属する団体、そして依頼者の利害関係者といった「集団」に属しています。これらの集団は、それぞれ異なる価値観や目標を持ち、時には互いに対立することもあるのです。

今回は、心理学的な視点から「集団間葛藤」について考え、法律家としてこの葛藤にどのように対処すべきかについて学んでみましょう。

集団間葛藤の基本:現実的葛藤理論

「現実的葛藤理論」とは、集団間の葛藤が、資源や地位、権力といった限られたリソースを巡る争奪によって引き起こされるとする理論です。この理論は、アメリカの社会学者ドナルド・キャンベルによって提唱されました。例えば、企業間の競争、部門間の資源配分、さらには遺産相続における家族間の争いなど、私たちの身近な法律問題にも通じるものがあります。

この理論を裏付ける有名な実験として、シェリフの「サマーキャンプ実験」があります。この実験では、少年たちを二つのグループに分け、キャンプ場で競争させました。初めは互いに協力的だったグループも、限られた賞品を巡って競争が始まると、急速に敵対心を強め、最終的には敵チームの旗を盗んで燃やすなど、暴力的な対立にまで発展したのです。これにより、集団間の葛藤がいかにして激化するかが実証されました。

内集団ひいきと外集団同質視

集団間葛藤の原因の一つに「内集団ひいき」があります。これは、自分が所属する集団(内集団)に対して、外集団よりも好意的な態度を持つ傾向です。例えば、同じ弁護士会のメンバーに対しては親近感を持つ一方、他の士業のメンバーに対してはやや冷淡な態度を取ることがあります。これは、自分の集団の一員であることが自己肯定感を高め、外集団に対して偏見や敵意を抱きやすくなるためです。

もう一つの要因は「外集団同質視」です。これは、外集団のメンバーを一括りにして「彼らはみんな同じだ」と見なす傾向です。例えば、遺産相続の問題で「長男の家はみんなお金のことばかり考えている」といったステレオタイプ的な見方をすることがあります。このような認識は、外集団に対する偏見を助長し、集団間の対立を深める原因となります。

集団間葛藤の解決法:拡張接触と脱カテゴリ化

集団間の対立を解決するために、心理学ではさまざまなアプローチが提案されています。その一つが「拡張接触」です。これは、内集団のメンバーが他の外集団のメンバーと友好的な関係を築いていることを知ることで、外集団に対する偏見が緩和されるというものです。例えば、同じ弁護士会のメンバーが、異なる士業のメンバーと個人的に良好な関係を持っていることを知るだけで、集団全体の態度が改善される可能性があります。

また「脱カテゴリ化」も有効です。これは、個人を集団の一員としてではなく、一個人として認識することです。例えば、異なる事務所のメンバーが合同で取り組むプロジェクトを設定し、それぞれのメンバーが専門知識やスキルを発揮する機会を作ることで、個人としての能力が評価され、集団間の対立が緩和されるのです。

再カテゴリ化:新しいアイデンティティの形成

さらに、対立する集団が新しい、より大きな共通のアイデンティティを形成する「再カテゴリ化」も、集団間葛藤の解決に効果的です。

例えば、対立している司法書士と土地家屋調査士が共同で「地域社会の法律問題解決」を目標に掲げる新しい組織を作り、共通の利益を目指すことで、従来の対立を超えて協力関係を築くことができます。これは、まさに「敵の敵は味方」という逆転の発想で、新たな協力体制を作り上げる方法です。

終わりに:心理学の知恵を法律業務に生かす

法律家として、私たちは個々の案件を扱う際に、しばしば集団間の葛藤に巻き込まれます。その際、心理学の知見を活用することで、対立の背景を理解し、適切な解決策を見出すことができます。

集団心理学の理論を理解し、日々の業務に生かすことで、法律家としての能力をさらに高めることができるでしょう。

これからも、私たちが法律と心理学の橋渡し役として、依頼者や社会に貢献できることを願っています。明日の大きな変化につながるかもしれませんね。

司法書士の「二大雑誌」の1つ『月刊登記情報』(きんざい様)での管理人の連載「法律業務が楽になる心理学の基礎」(京都大学の心理学の先生にレビュー頂いておりました)をベースとしたエッセイ風の気楽な読み物です。エッセイでの設定は適当です。

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(了)

※記事に関しては個人の見解であり、所属する組織・団体の見解でありません。なお、誤植、ご意見やご質問などがございましたらお知らせいただければ幸甚です(メールフォーム)。

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