*このコーナー(投稿)は、将来、論文・プレゼンテーション・会議・報告書・国内外の上司・同僚との会話に利用できそうな有意義な定義・データ・リンクを短くまとめたものです*
同期の組織内弁護士「AI、AI、とバズワードになっているけれども、『グローバル化』や『インターネットの時代』がたしかに時代を変えたように、変に斜に構える必要はないと思うんだ。AIが進化していく中で、人間にとって重要なことの定義も変わってくると思うんだ。君は組織内弁護士を超えた一個人としてどう思う?」
あなた「私もまだ勉強中で固まった答えを持ち合わせていませんが、いくつか、最近、ヒントになる考えを得ましたのでお話してもよろしいでしょうか。
まとめると、第1に「悟性」、第2に「意思決定、判断、創造性の部分」と「自動化を求める消費者の欲求」、第3に「味覚、触覚、嗅覚」「感性(感情や欲求)」がKey Wordになるのではないかと考えています。
第1に、「法務エレベーターピッチ”人工知能(AI)”と”Useless Class(無用者階級)”」で取り上げられていた駒沢大学・井上智洋先生の「悟性」という考え方です。
第2に、英国オックスフォードでテクノロジーと雇用に関する先進的な研究を発表したマイケル・オズボーン先生が述べる「意思決定、判断、創造性に関わる仕事はAIに置き換えられにくい」という点です。
また、オズボーン先生は、「人と人とのやり取りに価値を見出す部分もある。2013年の調査で飲食店の店員を置き換えるのは難しいという意外な結果が出た」ことを指摘し、「未来は技術で決まっているわけではない。消費者がどこまで自動化を求めるのか。技術だけでは代替できない要素は多い。」として、私達消費者が当該作業過程を「自動化」することに価値を見出すのかという視点が掲げられています。
そういう意味では、卑近な例ですが、法律事務所や法務部門の契約書作成は、クライアントである事業部や法律事務所の作業過程自体が重要というよりも、交渉を通じて、ベストなリスク配分をドラフティングに落とすという作業であり、大半のクライアントが「自動化」を望む作業といえます。翻訳も「人と人とのやり取りに価値」を見出すものが論理的にはあるかもしれませんが契約書や利用規約の英訳などにはそのような価値は乏しく、人と人とのやり取りに価値がある作業ではなく、自動化される可能性が高いと分析できます。
なお、オズボーン先生の2013年の論文によれば、「(AIによって)2050年ぐらいまでにアメリカの50%近くの仕事が消滅のリスクにさらされることになる」とのことです。
第3に、京都大学総長で霊長類学者の山極寿一[やまぎわ じゅいち]教授は次のように非常に示唆に富む教示をされています。
①「人間は五感のうち視覚と聴覚は科学技術で拡大され、仮想空間で情報が共有されるようになった。人間一人一人異なるはずだが『情報を共有しているから分かりあえる』という思い込みで均質化が進んだ。」
②「人間は進化の歴史以来、常につながりを求めてきた。人は一人では生きられない。信頼や期待を受け、自分と他者が世界を共有して生きるのが人だ。人の定義はそこにいきつく。五感(*)のうち味覚、触覚、嗅覚の3つが人間の関係を築く上で大きな役目をしている。身体を持たないAIにはこうした関係性を築けない。」
③「人間は自身の能力を『感性』と『知能』に分けて考えるようになった。AIは、感性を捨て置いて戦略を立てるが、そこには『なぜそうしたいか』という目的が必要。目的は感性に基づく感情や欲求から生じ、人間だから設定できる。感情や欲求を持ち続けられるかが人間と機械の分岐点となる。」
(*) 五感 / the five senses
参考記事:2019/1/1付 日本経済新聞 朝刊
視覚 / sight
聴覚 / hearing
嗅覚 / smell
味覚 / taste
触覚 / touch
深掘り資料:
- オズボーン先生関連
- [法務部門の方へ推薦] 山極先生の一般向け書籍で読了したものに 山極寿一「ゴリラからの警告「人間社会、ここがおかしい」 」(毎日新聞出版、2018年)
(了)
※記事に関しては個人の見解であり、所属する組織・団体の見解でありません。なお、誤植、ご意見やご質問などがございましたらお知らせいただければ幸甚です(メールフォーム)。