内野宗揮 法務省司法法制部長「(リーガルマインドは)事の本質へのアプローチ」丨メモしたい、法務の言葉

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内野宗揮 法務省司法法制部長―メモしたい法務の言葉とは?

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Problem Statement (問題の所在)

法務部員・組織内弁護士は、不確実性が高まる環境の中で、社内のクライアント(依頼者、経営者、事業部門など)の意思決定を十分な情報に基づいて支援する役割を担います。 しかし、日々の業務で何をすべきか迷うときもあります。

ソリューション

定期的に、法律雑誌などで見つけた「珠玉の言葉」を紹介します。 ノートやスマホにメモすることで、自分を鼓舞したり新しい気付きを得るきっかけになることを期待しています。

想定する読者

法務部門の方(とりわけ組織内弁護士・インハウス弁護士)、外部弁護士の方、ロースクール生・司法修習生の方

内野宗揮 法務省司法法制部長の言葉

内野宗揮 法務省司法法制部長「(リーガルマインドについて)形式的な法律・ルールの知識にとどまることなく、その背景にある法理に照らして具体的に適切妥当な解決に向かおうと知恵は⋯事の本質へのアプローチ」

内野宗揮「リーガルマインド雑感―NBL1300号に寄せて」NBL1300号(2025年)1頁

中堅組織内弁護士による分析(個人的な考え)

ルールとプリンシプルの決定的な違い

20世紀を代表する法哲学者ロナルド・ドウォーキンは、論文『The Model of Rules』において、法は単なる「ルール」の集合体ではなく、その背後にある「プリンシプル(原理)」を含んでいると主張しました。ルールは「全か無か」で適用されますが、プリンシプルは「重み」を持ち、ルールが不明確な場合や、形式的な適用が著しい不正義を招く場合に、正しい判断へと導く羅針盤となります。

内野部長の言う背景にある法理とは、まさにこのプリンシプルを指しているのだと拝察しております。条文の字面(ルール)に縛られず、その趣旨(プリンシプル)に立ち返る思考こそが、法的正当性を担保しています。

“The difference between legal principles and legal rules is a logical distinction… [Principles] state a reason that argues in one direction, but does not necessitate a particular decision.” (法的原理と法的ルールの違いは論理的な区別である… 原理は、ある方向への議論の理由を述べるが、特定の決定を強制するものではない。) Ronald M. Dworkin, “The Model of Rules” (1967).

実際に、日々の「予防法務」の場面では、私たち法務部門・組織内弁護士が「解決」を提供できる方向性となると感じます。

書籍の中の法と、活動する法

また、アメリカの法学者ロスコー・パウンドが提唱した「書籍の中の法(Law in Books)」と「活動する法(Law in Action)」の区別も、内野部長の言葉を支持しているように感じています。

パウンドは、書かれた条文がそのまま社会で機能するわけではなく、実社会の「活動する法」として機能させるためには、法律家による社会工学的な調整が必要だと説きました。形式的な知識にとどまらず具体的に適切妥当な解決を目指す姿勢は、死んだ文字を生きた解決策に変えるために不可欠なプロセスであり、これこそが法律家の存在意義そのものなのです。

“[L]aw may be looked at as a highly specialized form of social control… We must look at the working of the law rather than at its abstract content.” (法は高度に専門化された社会統制の形態と見なせる… 我々は法の抽象的な内容よりも、法の働き(作用)に目を向けなければならない。) Roscoe Pound, “Law in Books and Law in Action” (1910).

これは、私が取り組んでいる「法律」と「技術(特にITテクノロジー)」との間で生じる摩擦と隙間もまた、このように「ルール形成」という形式的な知識にとどまらず具体的に適切妥当な解決を求める領域なのです。

結論:リーガルマインドは「知恵」である

ドウォーキンの「プリンシプル」とパウンドの「活動する法」。この二つの古典的理論は、内野部長の言葉が、日々の業務に翻弄されながらも、法律の専門家として生きている私たち法務部・組織内弁護士が忘れてはいけない「法学の本流」をリマインドしています。

条文を検索する能力はAIに代替できても、背景にある法理を読み解き、現実のビジネスや紛争の中に「妥当な解決」を落とし込む知恵は、人間にしか持ち得ません。

本日の業務では、早速、(改めて)条文の向こう側にある「法の目的」を問い直してみてください。それこそが、あなたが組織に提供できる最高付加価値なのです。

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(了)

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