「弁護士様等」の転職面接にうんざり丨リーガルリスクマネジメントの教科書みんなの相談室(7)丨営業時間 火曜朝

1. 本日の相談室(火曜日朝のみ営業)

若手の組織内弁護士の方

渡部先生、相談があります。

相談内容 単刀直入に質問いたします。

  • 弊社は法務部門の急拡大中であり、新しいメンバーの採用面接が頻繁にあります。
  • 私は、月数回、多い時で週数回、採用面接に入ります。
  • 業務多忙な中、法律事務所から特に弊社のサービスや理念も調べることなく面接にやってくる「弁護士様」候補者にうんざりしています。製品やサービスの知識もろくにウェブサイトも調べていないことも丸わかりで、30分が時間のムダのように感じます。
  • 法務部長・人事部が書面(1次選考)で落とさないことも悪いのですが、結局、書面審査では、資格と学歴がピカピカだと落とす理由がなく、これらの「弁護士様」が結局面接に回ってきます。
わたなべ

共感 今回のご相談も「う…わかる(涙)」と思います。採用に携わったことがある法務部門の方は、経験されたことがある「あるある」だと思います。イライラやご不満は正当だと思います。

  • きっと、先生も、お忙しい中、「良い同僚になれる方が来てほしい」と真剣に面接に時間を割いている分、徒労感が半端ないのだと拝察しております。
    • 特に、製品やサービスのことを聞いても、要領を得ず、さらに、調べもしていないことを恥にも思ってなさそうな候補者がくると、多くの方が、さっさと面接を打ち切りたくなると聞きます。
  • 他方、誤解があれば恐縮ですが、1つ指摘を許していただければ、上記は、たしかに弁護士資格を持つ法律事務所からの転職希望者「あるある」であることは否定いたしませんが、調べもせずに面接にきてる候補者は、資格問わず、いらっしゃる気がいたしますので、本稿では「弁護士様」(すなわち、「複数ある競合の事業会社ではなく、なぜ御社か」という根幹を全く説明できないレベルの法律事務所所属の候補者、または「弁護士バッチ」を売りにしている候補者=弁護士に属する者であれば弁護士が無条件に優秀であり倫理的に優れ法務部門に的確な人材であるという錯覚)を念頭に置きつつも、「弁護士様と資格に関わらないことを前提とさせていただきます。

私なりに心を込めた回答 大切な悩みのご相談、改めて、ありがとうございます。私にも盲点があると思うのですが、アイデアのご提供として、以下をシェアさせてください。

問題の所在

はじめに、当Blog定期となりますが、米田憲市編『会社法務部[第12次]実態調査の分析報告』(商事法務、2022年)241頁には、下記のとおり、弁護士資格を持った人を採用するときの「心配事・懸念」がきちんと調査されています。弁護士を採用したくない理由堂々の第2位「企業文化や企業風土に対する理解(に欠ける)」は、まさに、歴代の法律事務所弁護士が、「複数ある競合の事業会社ではなく、なぜ御社か」という根幹を調べず/考えずに、(ヘッドハンターの進めるままに)事業会社の法務部門の就職面接に行っていることが原因と推察しています。

特に、弁護士資格の有無に関わらず、企業の最重要な「事業」を構成する製品」や「サービス」を調べずに面接に臨む弁護士様等が存在します。

他方で、現役の「企業人」とは異なり、個人事業主の集まりでもある法律事務所で身に付けられるとは限らない(組織人としての)「企業文化や企業風土に対する理解」は転職活動の一瞬で身に付けることはできません。

むしろ、そのことにすら意識が至らず、「専門性」「地頭」「学歴・成績」といった法律事務所就職時の延長線上で就職活動をしている人もいるかもしれません。ですので、言い訳をお許しいただけるのであれば、候補者個人が何か悪意・害意があってそうなっているわけではなく、一般企業への就職活動経験がなく、学歴・成績・司法試験合格(たまに人柄やコミュニケーション能力)など、法律事務所の就職活動の延長線上で、サービス・製品に完全に意識が及ばないことは、構造的な要因も寄与している可能性があります。

他方、あなたやご同僚など面接官の貴重なお時間を奪う正当な理由にならない、との指摘に反論の余地はございません。

3つの謹んでの提言

その上で、この問題の業界全体での解決方法なのですが、3つあります。皆様のアイデアもぜひお聞かせください。個人のバイアス・盲点さらに誤解もあるかと思いますが、考えるお役に立てば幸いです。

  • 候補者個人の問題丨私たち採用する法務部門側が「こういう態度で面接に臨む候補者は謹んでお断りです、事前に、最低限、事業構造・製品・サービスについて勉強してください」と啓発し発信していくことです。弁護士様等が、こういう情報に触れれば、頭の良い方ばかりなので、しっかりと調べて、調べた上で、製品・サービスが好きでなければ応募しないでしょう。また、調べた上で当該企業が大好きとあらば面接でもきっと素敵な会話で盛り上がると思います。入社された後も、同じ製品・サービスを支える仲間としても、これほど嬉しいことはありません。まずは候補者個人へのAdvance Notice―悪意があってそのようにしているわけではないので―事前に◯◯してきてください、という形で伝えてあげるのも優しさではないかと思います。
  • 企業も「考える機会」を事前にもっと積極的に与えよう!さらに、人事の書類・一次面接の時点で切ってもらう丨これは採用する企業側の工夫として、複数ある競合の事業会社ではなく、なぜ当社か??勇気を持って早い段階で尋ねることかなと思います。志望理由書というふわっとしたものを提出させるよりも、質問を指定し「なぜ当社か?」を記述させれば、面接に弁護士様等が残ってくる確率も減ると考えます。その他にも、『リーガルリスクマネジメントの教科書』をご参考にいただき、Q:入社後、どのように事業部門のゴールを実現していきたいですか?などの質問も効果的可と思います。ぜひ「考える」機会を与えましょう。その上で、回答が十分でなければ、書類で勇気を持ってキラキラ履歴書・レジュメを勇気を持って切ってもらいましょう。人事部の採用担当者とのすり合わせも大切ですね。
  • 隠れた転職会社・転職エージェントの問題 丨 大企業の転職サービスでは、企業から案件を取る営業部隊と、転職候補者と面談をするコンサルタントとの間で情報の断絶があります。候補者に受ける会社の「企業文化・企業風土・製品・サービス」を教育することができていないのが長年の問題です。多くの場合、相談窓口のエージェントは、当該会社を訪問したこともなく、システムに打ち込まれた情報以上の知識を持っておらず、候補者を多く抱え、数多くの内定を獲得することに重点を置いています(=逆に、素晴らしいヘッドハンターやエージェントはその企業・法務部門を熟知しているので、紙に書いていない情報を沢山もっている)。そのため、質の高い候補者を選別し、書類を提出する企業を絞り、真心を込めた対応をすることが求められます。転職会社やエージェントがその質を高めない限り、適切でない「なぜ競合他社ではなく、御社でなければならないのか」が全く説明できない候補者が無闇矢鱈と企業の面接に送り込まれることになります。この観点での改善はあまり望めないため、最終的には、企業の人事部門がスクリーニングしていくことになるとも感じます。

誰も幸せにならない「弁護士様等」の面接準備状況を改善し、候補者と法務部門との間で、真に有意義な時間がもたらされることを願っています。

念の為、本稿は、優秀な人・能力主義的な観点から、弁護士という資格を持つ方に一定程度の優秀な方々が高い確率で分布・存在していることは否定していませんが、冒頭に掲げたデータの通り、「弁護士を採用する懸念」に向き合えていない面接候補者がいるとすれば、それは双方にとって不幸であることを指摘しているにとどまります。

意見は多様ですが、本当に「優秀」な方は、その卓越した能力の一部として、相手方の懸念や気持ちに配慮し、それに適合する努力を怠らない能力ももっている、と私は考えています。

教科書該当箇所 渡部友一郎『攻めの法務 成長を叶える リーガルリスクマネジメントの教科書182-185頁(日本加除出版、2023)

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 -門奈 剣平 氏(株式会社カウシェ 代表取締役CEO)
DeNA 時代から「事業部の懐刀」であった戦友の手紙だ
 -大見 周平 氏(株式会社Chompy 代表取締役)

(※順不同:肩書は2023年2月時点:個人の見解です)

https://www.kajo.co.jp/c/book/07/0701/40940000001

(了)

※記事に関しては個人の見解であり、所属する組織・団体の見解でありません。

渡部推薦の本丨足りない、は補えばいい