坂本英之弁護士(日本組織内弁護士協会理事長)「CLOは⋯CEOの立場に立って経営全体を見渡す視点を持つことが重要」丨メモしたい、法務の言葉

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坂本英之弁護士―メモしたい法務の言葉とは?

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Problem Statement (問題の所在)

法務部員・組織内弁護士は、不確実性が高まる環境の中で、社内のクライアント(依頼者、経営者、事業部門など)の意思決定を十分な情報に基づいて支援する役割を担います。 しかし、日々の業務で何をすべきか迷うときもあります。

ソリューション

定期的に、法律雑誌などで見つけた「珠玉の言葉」を紹介します。 ノートやスマホにメモすることで、自分を鼓舞したり新しい気付きを得るきっかけになることを期待しています。

想定する読者

法務部門の方(とりわけ組織内弁護士・インハウス弁護士)、外部弁護士の方、ロースクール生・司法修習生の方

坂本英之弁護士の言葉

「CLOは⋯CEOの立場に立って経営全体を見渡す視点を持つことが重要」

坂本英之=小泉志保=木内秀行「General Counsel / Chief Legal Officer 座談会―今後の企業内弁護士の在り方とキャリアプラン」NIBEN Frontier 2025年11月号22−33頁

中堅組織内弁護士による分析(個人的な考え)

(前回1/7投稿の続き)

しかし、それでもやはり専門家がトップにいるほうが成果が出る可能性が高いという主張も有力です。

  • 例えば、第一人者であるアマンダ・グッドールの研究は、医療の分野ではあるものの、専門家がリーダーを務める優位性を統計的に証明しています。彼女が米国のトップ病院300機関を対象に行った調査によれば、医師資格を持つCEOが率いる病院は、一般的な経営者が率いる病院と比較して、医療の質や患者の生存率といったパフォーマンスが約25%も高いことが明らかになりました
  • この傾向は医療に留まらないという研究もあります。
  • 例えば、グッドールらは、研究大学の学長やF1チームの監督など、高度な専門性が求められる組織においても同様の調査を行っており、いずれも「中核となる専門知識を持つリーダー(Expert Leader)」のほうが、組織の成果を高めるという結論を導き出しています。
  • その理由は、単なる知識の有無ではないようです。すなわち、ウォーリック大学のArtzらの研究が示唆するように、部下は「自分がやっている仕事を深く理解している上司」の下で働くときに最も高いモチベーションと生産性を発揮するためです。
  • つまり、CLOにおいても、法務という極めて専門的な現場の「言葉」と「痛み」を理解できる弁護士がトップに立つことは、組織の信頼と実行力を最大化する上で、極めて合理的な選択だと言えるのです。

では、更に議論を進めて、技術専門職の法務部門のトップ(法務部長)であれば弁護士という点は説得的ですが、CEOと肩を並べるCLOが果たして弁護士でなければならないのかは、どう考えればよいのでしょうか?

この点、ライス大学の経営学者Erik Daneの研究が示唆しているように、ある特定の領域(この場合は法律)で高度な専門性を獲得すればするほど、その既存の枠組み(スキーマ)に固執し、変化や新しいアイデアに対して柔軟な解決策を見出せなくなる「認知的要塞化(Cognitive Entrenchment)」という現象陥るリスクが高まることは見逃せません。

経営戦略とは往にして「法的にはグレーな領域」への挑戦を意味しますが、純粋な法律家としての訓練を積めば積むほど、リスク回避バイアスが強化され、イノベーションを阻害する「NO」を突きつけるだけの存在になりかねないというパラドックスが存在します。

ここで、財務・会計の専門家であるCFOと同列に論じてCLOも専門家がなるべきだという立場を考えてみましょう。扱うリスクの性質が「計算可能か否か」という点で同列には論じ得ないという指摘があるかもしれません。

この点、経済学者フランク・ナイトが提唱した古典的な定義に従えば、CFOが扱う財務データや市場リスクは、過去のデータから確率分布を導き出せる「リスク(Risk)」に分類され、これは高度な数理的専門知識によって制御可能な領域です。対して、CLOが扱うレピュテーションや規制の変化は、確率計算が不可能な「真の不確実性(Uncertainty)」に分類されるとも言えます。

そうだとすると、計算可能な共通言語(数字)を持つCFOとは異なり、正解のない不確実性に対処するCLOに求められるのは、法知識の多寡ではなく、政治的判断や倫理観を含めた「総合的な経営判断(Business Judgment)」であり、それは必ずしも弁護士資格に依存するものではないのかもしれません。

皆様は双方の立場を見て、どのようにお考えになりますか?

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(了)

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