有斐閣📗新著『伝わる法務』がAmazon第3位(法学入門/最新リリース)へ

新浪剛史氏丨サントリー法務部は改組中の激震丨8/21(木)に新浪氏→執行役員(もしかしたら法務?)へ電話📞で第一報

サントリー新浪氏の激震

図表・データ | 組織内弁護士研究ノート® | 法務部とインハウス弁護士の金貨

おはようございます。サントリーホールディングス株式会社(以下「サントリー社」といいます。)の「新浪氏」に関するニュースが日本全国を駆け巡っております。「組織内弁護士」や「法務部門」が読者である本稿では、一歩ひいて、「取締役会」そして、取締役会の意思決定(informed decision)を支えるサントリー社の「法務部」「コンプライアンス部」(組織改編真っ只中であった模様)について情報を整理してみます。

サントリー社といえば、ご高著『希望の法務』(商事法務、2020年)の著者であり、法務部長としてリーダーシップを発揮されファンも多い明司雅宏(あかし まさひろ)様(外部サイト)を擁する、日本屈指の法務部を誇る会社です。

なお、新浪氏に関連する違法の疑いが報じられているサプリ問題は本稿の中心的テーマではありません。今回は、この出来事を契機に、法務部門そのものについて、少し異なる角度から考察してみたいと思います。

(*)personal view only

お詫び丨当初の記事で、サントリー社の取締役会の情報が誤っておりました、訂正の上、お詫び申し上げます。

サントリー新浪氏の辞任に関するプレスリリース

はじめに、法務部/外部弁護士も当然チェックしたと思われる新浪氏に関するプレスリリースは、下記のとおりです。

https://www.suntory.co.jp/news/article/mt_items/14884.pdf

サントリーホールディングス丨取締役会構成など

代表取締役会長・
取締役会議長
佐治 信忠 氏
代表取締役副会長鳥井 信吾 氏
代表取締役社長鳥井 信宏 氏サントリー 社長
取締役副社長山田 賢治 氏コーポレートマネジメント本部・総務部・BCP・広報部管掌、グループ監査部担当、One Suntory 推進担当
取締役専務執行役員木村 穣介 氏SCM部門統括、サプライチェーン本部長
岡 賀根雄 氏R&D・品質・生産部門統括、MBC開発研究所管掌、ものづくりCoE本部長
サントリー 副社長 ものづくり部門、ビール開発生産本部長
取締役御厨 貴 氏
有竹 一智 氏寿不動産 取締役副社長
常勤監査役松岡 一衛 氏
井上 豊信 氏
監査役天野 実 氏
山田 英夫 氏
執行役員(法務系)明司 雅宏 氏コーポレートマネジメント本部長、法務・コンプライアンス部長、グローバルARS部長

サントリー新浪氏→執行役員へ丨法務部がサポートしたであろう時系列

日付できごと出典
8月21日新浪氏が同社執行役員に「購入したサプリメントについて疑惑が生じている」と電話で第一報。(朝日新聞)
8月22日警察の捜査(家宅捜索)を受ける。(朝日新聞)
8月22日 深夜外部弁護士が聞き取りを実施。新浪氏は「サプリは疑義のあるものではない」と説明。(朝日新聞)
8月23日社業で米国出張に出発。(朝日新聞)
8月26日臨時取締役会を開催。新浪氏からリモートで経緯説明。(朝日新聞)
8月28日新浪氏を除く全取締役・監査役で協議し、全員一致で辞職を求める方針を決定。(朝日新聞)
9月1日新浪氏の辞任が効力発生。(Suntory)
9月2日会社が緊急記者会見を開催し、経緯と判断を説明。同社プレスリリース公表。(朝日新聞)

誤解があれば恐縮ですが、組織内弁護士の観点から申し上げますと、今回の件で「サントリー社のリスクマネジメントやコンプライアンスはしっかりしている」と感じる点がございます。同社が発表している情報が事実であることを仮定/前提にすると、執行役員に電話が入ったその日から初動が開始されており、しかも海外出張の前に弁護士によるヒアリングまで行われているという点です。

このとき電話を受けた執行役員が誰であったのかは不明ですが、私見としては、代表取締役が警察の捜査に関する連絡をまず最初に入れる相手は、最も法律に詳しい法務部長やコンプライアンスを担う役員であった可能性が高いと推察されます。仮にそうであれば、代表取締役が自らの問題について率直にリーガルに相談したことを示唆しており、大変素晴らしい対応であると考えます。

また仮にそうではなかったとしてもリーガル以外の執行役員が情報を受けたとして、直ちに法務部門に共有されたことは、翌日には弁護士によるヒアリングが行われているという時系列からも明らかです。もしリーガルが巻き込まれず、ビジネスサイドだけで「どのように隠蔽するか」「どう対処するか」といった議論をしていたのであれば、翌日の段階で弁護士によるヒアリングを実現することは困難であったでしょう。

したがって、電話を受けたのがリーガルの執行役員であったか否かにかかわらず、重要な情報が速やかに法務部門に共有され、初動が適切に行われたと考えるのが自然であると思います。

【個人的な見解に関する補足】ただし、上記の分析には一つ留保がございます。すなわち、会社が公式に認定・発表している時点より前に、よりカジュアルかつ非公式な形で、本件に関する何らかの連絡や情報共有があったのか否かについては、判然としないという点です(第一報の事実認定及び定義)。また、警察が薬物関係の捜索差押えを行う際に、証拠隠滅の可能性を踏まえ、事前に丁寧な連絡をすることは通常は考えにくいといえます。したがって、家宅捜索に先立ち、警察から非公式な問い合わせが存在したのか、またそのような問い合わせに対して会社のリーガル部門が情報共有を受けていたのかどうかについては、現時点では明らかではありません。以上を踏まえ、本稿では会社の発表している時系列を前提として分析を行っております。

サントリー社の法務部とコンプライアンス部は組織改編の真っ只中だった模様

偶然出てきたプレスリリースですが、上記の時系列と重ねてみると…ちょうど組織改編の真っ只中だったのだと思います。 https://www.suntory.co.jp/news/article/mt_items/14874.pdf

組織変更と役員人事のお知らせ
サントリーホールディングス(株)は、グループ会社の組織変更ならびに役員
人事を行いますので、下記のとおりお知らせします。
― 記 ―
●組織変更 2025年9月1日付
サントリーホールディングス株式会社の改組
・グローバルなコンプライアンス体制の強化および法務機能とコンプライアンス
機能の一体的運営のため、「法務部」と「コンプライアンス推進部」を統合し、
「法務・コンプライアンス部」とする。

新職旧職氏名
執行役員 コーポレートマネジメント本部長、法務・コンプライアンス部長、グローバルARS部長執行役員 コーポレートマネジメント本部長、法務部長、グローバルARS部長明司 雅宏(様)

明石様の肩書も2025.9.1に変更されたようでございます。

自分用メモ📝サントリー社の組織内弁護士丨日弁連の情報に基づく

日弁連の弁護士検索では、当該企業に弁護士登録をしている方が何名いらっしゃるのかについては、公的に確認可能な情報がございます。その情報に基づきますと、サントリー社(グループ会社を含むものと理解しておりますが、もし誤りがあればご指摘ください)には、13名もの弁護士の先生方が在籍されているようでした。まさに圧巻の陣容であり、深い敬意の念を抱いております。

氏名弁護士会会員区分
岩本 博成 先生第二東京弁護士
大野 陸 先生第一東京弁護士
岡本 拓也 先生東京弁護士
小沢 龍士 先生第二東京弁護士
菊池 れい子 先生東京弁護士
斉藤 尚美 先生第一東京弁護士
櫻井 あゆみ 先生第一東京弁護士
只信 優紀 先生東京弁護士
谷田 智沙 先生第一東京弁護士
中島 幸之助 先生第一東京弁護士
馬塲 惠理 先生東京弁護士
平野 有加里 先生東京弁護士
前田 未来 先生第一東京弁護士

サントリー様の法務部門は、業界の中でも非常に高い評価を得ており、過去に勤務されていた方からも「とても働きやすい環境である」と伺ったことがございます(明石様のインタビューはこちら)。

今回の件は、組織改編の最中であることに加え、夏休みの後半というタイミングでもあり、同じ法務の一隅で働く者として、ご担当者様のご負担はいかばかりであったか、想像してもし尽くせないものがあります。

臨時取締役会の招集、情報収集や警察対応、外部弁護士との連携、進行中の議論の記録・保存、辞任が拒否された場合のシナリオ検討、取引先やステークホルダーに関連するリーガルリスクの洗い出しとその低減策、さらにはコンティンジェンシープランの策定、各部門との連携など、多岐にわたる対応が求められたことと拝察いたします。

明石様や法務・コンプライアンス部の皆さまの危機対応へのご尽力に深く敬意を表します。

***

ご相談・講演のご依頼などはこちらからご連絡を賜れますと幸いです。


(了)

※記事に関しては個人の見解であり、所属する組織・団体の見解でありません。なお、誤植、ご意見やご質問などがございましたらお知らせいただければ幸甚です(メールフォーム)。