
1. コーナーの狙い
2. 今回の「メモしたい、法務の言葉」
いったいどちら側のカウンセラーなんだ。MUFGとしてどこまでのリスクを取れるのかというマインドで議論してくれ
― 株式会社三菱UFJ銀行 代表取締役専務執行役員CLO 株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ 執行役専務 グループCLO ジェネラルカウンセル 弁護士 森 浩志 先生
森浩志「弁護士の肖像―企業が挑戦する新たな分野はルールなき世界でもある。そこで「何が正解か」を語れるCLOのニーズは高まっていく」Attorney’s MAGAZINE91号(2025年)4−11頁
ご関心のある方は、Attorney’s MAGAZINE様のオンライン版で全文をお読みいただけます。私が毎号楽しみにしている雑誌です。
3. 中堅組織内弁護士による分析(個人的な考え)
森先生のお考えには心から共感しますし、社内クライアントのためにリスクテイクを真剣に議論する姿勢は、企業法務にとって非常に重要だと感じます。特に規制当局寄りの発言ばかりをする外部弁護士に対して「いったいどちらの立場で助言をしているのか」と確認することは、結果的に企業法務部門としての存在感を高めるきっかけにもなるでしょう。
ただし、これを若手や中堅の立場で年上の外部弁護士に伝える場合、礼を失していないか、あるいは中長期の関係を損なうリスクは十分に考慮する必要があります。MUFG様のように案件量が大きく、外部弁護士への発言力が高い企業ならこそ可能な対応ともいえますが、そうでない企業の場合も、必要以上に保守的な外部弁護士の起用方針を、どこかのタイミングで、今後見直すことは検討すべき課題でしょう。
他方、例えば、規制当局(例えば、公正取引委員会)との関係が深い弁護士が、必ずしも案件ごとに最適な選択肢とは限りません(案件として最適な場合も勿論あります)。私たち法務部員は、ときには、「すでに築かれた当局や他クライアントとの長い関係を優先するあまり、依頼企業(自社)にやや不利な譲歩を促すような弁護士ではないか」を見極める必要があります。講演や執筆、研究会などでの「べったり具合」を冷静に見極め、外部弁護士の人間関係がクライアントの利益に影響を与えていないか、慎重に検討することが大切だと思います。
この点、法律専門職のネットワークや社会的構造を詳細に分析し、弁護士が複数のステークホルダーとの関係をどのように構築し、どのように利害を調整しているかを示した研究と言われている HeinzとLaumann(1982)の研究 から示唆されるように、外部弁護士は規制当局や大口クライアントとの長年のネットワークを優先し、必ずしも依頼企業の利益と完全には一致しない対応を取ってしまうリスクがあるとされています。
したがって、企業法務の側では、外部弁護士が本当に「規制当局寄り」になっていないか、あるいは他クライアントとの関係を重視しすぎていないかを慎重に見極める必要があると言えるでしょう。こうした複眼的視点を持つことで、企業にとって最善のパートナーを得られる可能性が高まります。
結局は、クライアントの利益を最大化するためにどれだけ真摯に向き合ってくれるかがポイントです。森先生のような勇気ある姿勢を見習いつつも、複眼的な視点で外部弁護士の選任や関係構築を考えることが、企業法務にとって重要な課題と言えるでしょう。
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[リーガルリスクマネジメントの教科書とは?]
『リーガルリスクマネジメントの教科書』(日本加除出版)は、2023年に出版された教科書です。リーガルリスクマネジメントという臨床法務技術を独学で学んでいただけるよう、心をこめて作成いたしました。きっと喜んでいただけると思います。

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(了)
※記事に関しては個人の見解であり、所属する組織・団体の見解でありません。なお、誤植、ご意見やご質問などがございましたらお知らせいただければ幸甚です(メールフォーム)。
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ソリューション
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