
リーダーシップの第一歩:法律家としての小さな一歩
私たち法律の専門家は、フリーランスとしての独立性を持ちながらも、法律事務所や弁護士事務所、企業の法務部など、組織に所属して仕事をすることが多いのではないでしょうか。
そんなとき、上司、同僚、部下との関係性をうまく築くために、避けて通れないのが「リーダーシップ」です。
しかし、現実にはリーダーシップを意識的に発揮し、改善しようとしている法律家はそれほど多くありません。法律業務においては、専門知識を駆使して案件を解決することが主で、チームをまとめたり、他者を指導したりすることは、あまり重視されていないように見えます。
リーダーシップの三つの理論:偉人説から行動論、そして状況適合論へ
リーダーシップの理論は、時代とともに変遷してきました。
最初に登場したのは「特性論」、いわゆる「偉人説」です。これはリーダーシップを生まれつきの特性や資質と捉え、ナポレオンやアレクサンドロス大王のような「天性のリーダー」を理想とするものでした。ストッディル(Stogdill R. M.)は、優れたリーダーに共通する特性として、能力、素養、責任感、参加的態度、地位の5つを挙げました(第11回8月号_0515締切_法律業務が楽に…)。しかし、こうした特性がすべての状況に当てはまるわけではなく、時代や文化、組織の環境によって求められるリーダー像は異なるため、「すべての場面に共通するリーダーの特性を定義するのは無理である」とされるようになりました。
次に登場したのが「行動記述論」です。米国の研究者ベニス(Warren Bennis)は、リーダーシップを学習可能な「行動のスタイル」と捉えました。これは、リーダーシップを特性ではなく、行動として捉えるもので、誰でもリーダーシップを学ぶことができると考えます。ブレーク(Robert R. Blake)とムートン(Jane S. Mouton)が提唱した「マネジリアル・グリッド」では、縦軸に「人への関心」、横軸に「業績・生産への関心」を置き、リーダーシップ行動を2つのスタイルに分けました。仕事中心的なスタイルと、人間関係中心的なスタイルです。これは、リーダーシップは学習や訓練によって誰でも身に付けられることを示しています。
そして、現代のリーダーシップ論は「状況適合論」にたどり着きます。これは、リーダーの行動スタイルだけでなく、集団を取り巻く状況やリーダーとメンバーの関係性に注目し、リーダーシップを相互作用の中で考えるものです。フィードラー(Fred E. Fiedler)は、「最も苦手な仕事仲間をどう評価するか」に着目し、人間関係指向的(対人指向)か、仕事指向的(課題志向)かを調査しました。その結果、集団の置かれた状況によって、有効なリーダーシップ行動が異なることを発見したのです。
リーダーシップを日々の業務に活かすために
さて、理論を理解したところで、実際にどのように日々の業務に応用できるか考えてみましょう。たとえば、ある弁護士事務所のシニアメンバーであるAさんを例に取ります。Aさんは、事務所内で強い地位と権限を持ち、部下たちとの関係も良好です。担当するプロジェクトも業務内容が明確で、業務量は多いものの、やるべきことははっきりしています。この場合、Aさんには「課題志向」のリーダーシップが求められます。つまり、業務を効率的に割り当て、迅速に実行を監督することが重要です。
一方で、地元の弁護士会のイベントを取りまとめることになったBさんのケースを考えてみましょう。Bさんは、5人のメンバーを率いることになりましたが、彼らの間には過去に対立があり、Bさん自身の権限も限定的です。このような場合には、「対人指向」のリーダーシップが求められます。Bさんは、メンバーたちの自発性を引き出し、柔軟に対応しながらチームワークを育む必要があります。
終わりに:リーダーシップは日々の積み重ね
リーダーシップに画一的な答えはありません。状況に応じて、最適なスタイルを選び取ることが求められます。法律家としての業務を円滑に進めるために、これらの理論を理解し、日々の実践に活かしていくことが大切です。これからも、小さな一歩から始めて、リーダーとしてのスキルを磨き続けましょう。
司法書士の「二大雑誌」の1つ『月刊登記情報』(きんざい様)での管理人の連載「法律業務が楽になる心理学の基礎」(京都大学の心理学の先生にレビュー頂いておりました)をベースとしたエッセイ風の気楽な読み物です。エッセイでの設定は適当です。
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