Problem Statement(問題の所在)丨 子供名探偵のように「真実はいつも一つ!」と言い切れないのが複雑な大人の世界です。本稿は、スタートアップ業界(特に、信託SOを付与して上場してしまった後の企業・従業員ら)を大混乱に陥れた「2023年信託SO騒動(副題:THE BATTLE. JYOTO-KAZEI VS. JURAI-KARA KYUYO)」について、国税庁様から行政文書開示決定を頂いた重要な資料を通じて、少しでも、実務家・研究者による「真相究明」に役立つことを目指しています。
出典:日本経済新聞「ストックオプション、信託型は給与か? 当事者に聞く」2023年6月12日
国税庁「(信託SOは)従来から給与所得課税と回答」
まもなく約3ヶ月…。2023年6月12日付の日本経済新聞の記事(紙版)を覚えている読者も多いと思います。この記事では、「国税庁」と「信託SO推進側」…見解の異なる両者の対決をことさら演出するような紙面構成が話題になりました。その後、信託SO騒動は、ややピークアウトして、やや下火になってしまったが、果たして、真実はどこにあるのでしょうか。
その「謎」に迫ります。
対立する主張 国税庁「従来から給与所得課税」vs. 信託SO推進側「オーナーが信託に資金拠出するタイプであれば、譲渡益課税であるとの回答を得た」
一見すると、対立する両者の主張。果たして、どちらが真実に近いのでしょうか。
ここで、国税庁の幹部は、日経新聞において、次の通り述べています。
「信託型は給与所得課税の対象にならないとして導入が進んでおり、問題と考えている。国税庁は従来から個別の問い合わせに対し、給与所得課税と回答してきた。この見解を広く周知するために公表した。信託型は給与所得課税を回避する一面を持ったスキームだと認識している」
出典:日本経済新聞「ストックオプション、信託型は給与か? 当事者に聞く」2023年6月12日
国税庁幹部の発言を素直に読めば、信託SO推進側が主張する「オーナーが信託に資金拠出するタイプであれば、譲渡益課税であるとの回答を得た」を全否定しているようにうかがえます。
なぜなら、仮に「譲渡益課税であるとの回答」が事実存在するのであれば、「従来から個別の問い合わせに対し、給与所得課税と回答してきた」と言い切ることは難しく「従来から個別の問い合わせに対し、給与所得課税と回答してきた場合もあれば、譲渡益課税と回答したこともあった」と説明なされるべきだからです。
本稿のアプローチ方法│行政文書開示請求がベスト
さて、証拠に基づかない検証不能な主張は、「言った」「言わない」の憶測の域を出ません。
そこで、行政文書開示請求が登場します。行政文書開示請求は、少なくともとも、一方当事者である行政機関(国税庁)側の根拠(証拠)の存否及び存在する場合には黒塗りになるものの証拠の内容を明らかにすることができるからです。
また、自分自身の過去の行政文書開示請求の経験から、「ピン止め」(ここでは、文書の存否について、結果的に「不存在」が明らかになった場合でも「不存在」自体が議論の有益な証拠になることを指します)を含めて、3つに対象文書を絞り、請求文書の範囲を精緻に検討しました。
3つの対象文書は、例えるのであれば、測量におけるA地点・B地点・C地点の3点です。異なる3点を通じてA地点・B地点・C地点を結んだ三角形の中に、何がより真実に近く、何が真実から遠いのかが見えてくると言えます。
極端な例としては、請求No.3の「従来から個別の問い合わせに対し、給与所得課税と回答してきた」という行政文書が「不存在」という結果になれば、国税庁の主張が疑わしくなります。順を追って説明すると、①行政機関における照会に対する回答は、通常、行政機関内部における調査⇒検討・議論⇒決定(稟議)⇒回答というプロセスが不可避的に生じます、②当該プロセスは「紙」で行われます、したがって、③回答が真実存在するのであれば、「紙=行政文書」が原則として作成され保存されていると言えます。
特に、信託SOという即答が難しい複雑な法的スキームという事の性質上、照会を受けた国税局職員が即答できるとは到底思えません。このように、行政文書が存在するという「事実」を通じて、対立する当事者の主張の真実味の濃淡が測定できるのではないかという仮説が成り立ちます。
対象とした行政文書 No.1 〜 No.3
対象行政文書 No.1│ 国税庁次長の国会での御答弁から探る
解説「2023年信託SO騒動(副題:THE BATTLE. JYOTO-KAZEI VS. JURAI-KARA KYUYO)」の本震の「余震」とも言えるのが、2023年2月20日付衆議院予算員会における国税庁次長の御答弁でした。
そこで、2023年5月末の見解公表前の「2月」の段階において、どのような検討及び資料に基づいてこの国税庁の答弁が導き出されたのかをピン止めしておくことが有益と言えます。
特に、この「2月」の答弁については、いわゆる「オーナー拠出型」を明確に認識できておらず、「会社拠出型」を射程にしたものではないか、否、双方を射程にしたものである、という論争がありました。ですので、2月時点の答弁の下敷きになった内部資料(行政文書)がもし開示されれば、答弁の時点で基礎にした情報が把握できます。
行政文書開示請求の強みとして、過去のある時点に存在していなかった文書を追加して開示できないという点があります。つまり、2023年8月現在の国税庁の主張や5月の見解公表時点の資料を、遡って、2023年2月の時点の行政文書としては開示できない制約条件が伴います。
「何当たり前のこといっているのだ?」―と思われるかもしれませんが、これが強みです。なぜなら、ある一方当事者(行政側)が、「今あなたに言ってることは、昔(当時)から考えてましたよ」と主張した場合、私達が、「昔(当時)から考えてましたよ」という主張を覆すのは容易ではありません。しかし、過去の一時点の行政文書を開示していただければ、その時点での最新の情報(当時のMAXの情報)が明らかになるわけです。あとは引き算をして、「(現在の資料)ー(過去の資料)」を行えば、当時、基礎にしていなかった資料・事実が透けて見えてきます。
刑事事件の「供述の変遷」同様、過去何をしゃべっていたのか、その時点の発言の根拠=文書を抑えにかかると言うわけです。
令和5年2月20日に行われた衆議院の予算員会第三分科会における国税庁次長・星屋和彦氏の下記抜粋の「信託型ストックオプション」に関する答弁の準備に関連して収集または作成された行政文書(答弁を準備するにあたり調査として収集した文書、次長または関係者に対するレク資料などの説明資料、当該レクの実施を記録した文書を含む)をご開示ください。
○星屋政府参考人 お答え申し上げます。
発行法人が役員等に付与するストックオプションにつきましては、一般的な課税関係を申し上げますと、当該ストックオプションが税制適格ストックオプションに該当する場合、それから役務提供の対価に該当しない場合、これらの場合を除きまして、ストックオプションを行使した日の属する年分の給与所得と取り扱っているところでございます。
委員御指摘の信託型ストックオプションでございますが、信託にストックオプションを付与していることから、役員等の給与所得として課税されないのではないかとの見解があることは承知しておりますが、その信託型ストックオプションが役員等への付与を目的としたものである場合には、実質的に役員等に付与したと認められると考えられますことから、国税庁といたしましては、ストックオプションを行使した日の属する年分の給与所得に該当するものと考えているところでございます。
なお、一定の要件を満たす税制適格ストックオプションの場合には、租税特別措置法によりまして、ストックオプションを行使した日における経済的利益につきましては、給与所得としては課税しないという措置が設けられているところでございます。
対象行政文書 No.2│ 国税庁と対峙する「他方当事者」側の証拠を探す
解説「2023年信託SO騒動(副題:THE BATTLE. JYOTO-KAZEI VS. JURAI-KARA KYUYO)」における「他方当事者」の主張を裏取りしておくことも重要なことです。
仮に、他方当事者の「国税局から照会を確かに得ていたんだ」という主張が正しい場合、税務局において、照会に対する回答に関わる行政文書が存在する蓋然性が高いとの仮説に基づいています。
具体的に見ていきましょう。他方当事者側の民間企業(信託SOは給与所得ではないと反論していた側)は、国税庁の見解公表前にはプレスリリースで、下記7の通り『過去に複数回、国税局への確認が行われており、それらの結果として、「時価発行である限りにおいては」役職員等を受益者として指定したとき、及び権利行使時に課税を行わない旨回答を得ております』と述べていましたが、(誤解があれば恐縮ですが)プレスリリースが後日、削除理由の公表もないまま、ウェブサイトから突然削除されました。
本件では、少なくとも私の知る限り(誤解があれば恐縮ですが)、信託SO推進側が「給与所得ではないとの回答を得た」という点について、客観的な物証・書証は、インターネット上で誰でもが閲覧できる形では開示されておらず、ブラックボックス(検証ができない状態)になっています。
話はかわりますが、行政文書開示請求は興味本位で行うべきではないと個人的に考えております。貴重な国家のリソースをお借りして、研究資料を共有頂くための「謹んでお願いする」という姿勢が重要なプロセスであると認識しています(開示業務がどれほど負担かについては行政組織内弁護士の友人・知人から話を聞いておくことが重要・有益でございます)。したがって、本請求のように、期限を明確に区切ることが大切である。区切りがない場合、遡れるだけ(=保管されている限り)文書を遡る必要が出てまいります。そこで、請求者側が、謹んで、◎年◎月◎日以降に作成された行政文書に限る、など請求を限定することが強く推奨されます。もし頭の片隅に留めておいていただけると、よりcooperativeな姿勢で開示をお願いできると思います。
民間企業のプレスリリース(現在は削除されているためウェブアーカイブとして脚注及び別紙をご参照ください)によれば、『国税局への確認が行われており…「時価発行である限りにおいては」役職員等を受益者として指定したとき、及び権利行使時に課税を行わない旨回答を得ております』との記述があります。そこで、信託型ストックオプションに関する問い合わせ(ここでは、いわゆる文書での照会に限らず、国税局または税務署に対する電話などでの相談・問い合わせのうち国税庁においてその検討、稟議、内部照会または回答の一部または全部が文書として保存された相談・問い合わせと定義します。なお、信託型ストックオプションとは、厳密な定義がないため、基本的に、信託及び新株予約権(またはストックオプション)の2語を含むスキームに関する問い合わせと一応広義に定義してご検討ください。)に関する検討及び回答を記録した行政文書をご開示ください(但し、信託SOが開発されたとされる2014年1月1日以降に記録された行政文書に限定いたします)。
7. 過去の照会結果・現在の実務上の取扱いそもそも信託型ストックオプションに関しては、過去に複数回、国税局への確認が行われており、それらの結果として、「時価発行である限りにおいては」役職員等を受益者として指定したとき、及び権利行使時に課税を行わない旨回答を得ております。また、直近でも東京都内の複数の税務署から、複数の発行会社の役職員に対して、給与所得課税ではないかとの問い合わせがあったときに、時価発行新株予約権である旨を説明したところ、国税局に問い合わせた上で、結局、権利行使時非課税でよい旨の回答があったという事例が多数存在しております。
対象行政文書 No.3│ 国税庁「従来から給与課税…と回答」の根拠を見せて
日本経済新聞の報道によれば、令和5年5月29日に開催された説明会において、国税庁の担当者は、下記の通り、「従来から給与課税であり、各社からの照会には給与課税として回答してきた」旨の説明を実施されたと理解しております。
そこで、国税庁(国税局や税務署)が、過去に行った一切の「各社からの照会には給与課税として回答」にあたる(または裏付ける)行政文書をご開示ください。なお、照会した個人・法人の名称に関わる非開示事由に該当する情報は、当然に、一部黒塗りで差し支えございません。
説明会にはオンライン含め3000人以上が参加した。導入企業数が増えてからの見解の公表について批判もでた。国税庁は「従来から給与課税であり、各社からの照会には給与課税として回答してきた」と反論した。
解説 行政文書開示請求を通じて、様々な行政庁がお時間を割いて御開示に協力くださる中、本件の国税庁ご担当者様のように終始真摯に対応してくださる信頼できる開示部署を持つ行政機関が多数です(*)。
(*)他方、残念ながら、極稀に、何のコミュニケーションもなく、独自に開示請求の文言を狭く解釈して対象行政文書を外そうとしたり、対象行政文書が特定できないと言って請求をやりすごそうとするご担当者様に出会うことも経験上存在いたします。ここで情報公開窓口の方の難しさもフェアに紹介すると、公開請求を受け付けるのは窓口の方なのですが、その先には、当該行政文書を作成・保管している現場の部署のご担当者も存在します。ですので、現場の部署のご担当者の特性・性格に左右されることも多く(情報公開窓口が強く粘り強く働きかけても、現場の担当者が意に介さずやや粗雑な対応をする場合が上記のような稀な例に該当します)、窓口担当者様が悪いというわけではないのです。省庁によって、情報公開窓口の方がリスペクトされている省庁もあれば、そうではないのかなと感じる省庁もあり、個人では如何ともしがたいのも事実です。
そこで、過去の経験から生み出されてきた1つのテクニックは、日刊紙における行政官の発言に紐づけて行政文書を特定する手法です。
行政官の方々は、経験則上、慎重な方も多く、日刊紙上や公の場において発言される際(特に本件のように世間の注目があつまる場合、かつ、個人の発言が省庁の見解として捉えられうる場合)には、相応の根拠に基づいてご発言をなされていることが多いと考えられます。
そして、行政機関において、相応の根拠とはすなわち「紙=行政文書」であり、口頭や伝聞だけの情報に基づいて発言される蓋然性は低いと考えられます。
本件でも、「従来から給与課税であり、各社からの照会には給与課税として回答してきた」旨の御説明に引っ掛ける形で行政文書を特定を行いました。これにより、単に「給与課税として回答してきた行政文書」と短く特定する場合と比較して、経験上ですが、文書が「不存在」となることなく、より適切な範囲で開示されることが多いように思われます。
開示決定 No.1〜No.3 │令和5年7月27日付
実務家・研究者の研究のために、行政文書開示決定書を以下の通り共有いたします。ここには、開示された部分、黒塗り部分について、その理由が記載されています。
開示決定 No.1│ 国税庁次長の国会での御答弁から探る
開示決定 No.2│ 国税庁と対峙する「他方当事者」側の証拠を探す
開示決定 No.3│ 国税庁「従来から給与課税…と回答」の根拠を見せて
信託SO騒動についてNo.1〜No.3について開示された資料(加工なし)
開示行政文書 No.1│ 国税庁次長の国会での御答弁から探る
令和5年2月20日衆議院予算委員会第三分科会国会答弁書及び参考資料
令和5年2月16日付次長説明資料「信託型ストックオプションの課税関係について」
開示行政文書 No.2│ 国税庁と対峙する「他方当事者」側の証拠を探す
ここでは、国税庁から、7点の行政文書を開示して頂きました。
信託SO騒動の真実を明らかにする上で、2014年1月1日以降の行政文書としては7点のみ(*)存在していると言えるでしょう。
(*)隠蔽などの極めて特殊な事情がない限り(本稿ではその可能性は捨象しています)、保管期間が経過して破棄された資料を除いて、現存するのは7点という意味です。
この中に、信託SO推進側の言い分となる照会が入っているのか、照会内容について踏み込んだ言及のある近時のインタビュー(「国税はいつ見解を変えたか」 信託型SO考案者が“経緯”明かす)とも照らし合わせて、第三者も精査ができる可能性があるかもしれません。
素朴に抱く問題の核心としては:
- この7点資料の中に、信託SO=譲渡益課税であるとの回答を得ていたと主張する信託SO推進側の照会/回答は含まれているのでしょうか?
- 仮に含まれている場合、開示された7点のうちどれなのでしょうか?
- 仮に確かに「照会」したはずなのに、7点に含まれていない場合、それはなぜなのでしょうか?
これらが、1つブラックボックスを第三者が検証していく上での鍵だと個人的に思います。
7点の資料はまだ精査していませんが、照会をしたが「前提事実がそもそも異なっていたり」「途中で取り下げたり」しているものも存在しておりました。
個人的な素朴な疑問点としては、5点目の資料は不可思議で謎が残ります。
概要、「疑義があると分かればOK」という理由で取り下げられていますが、この資料を素直に読むと『オーナーが(委託者として)信託に資金拠出するタイプ』についての照会のように思われるからです。
つまり、5点目の照会が、誰によって、いつなされたか、は答え合わせのためには、結構重要な行政文書となる可能性があるのかもしれません。
(私の理解に限界があるため、誤解があれば大変恐縮なのですが)当該照会者個人は、『オーナーが(委託者として)信託に資金拠出するタイプ』について、国税庁が、給与課税が生じるという疑義を持っていることを知覚していた可能性があり、事実、「疑義があることがわかれば足りる」と申述して取り下げをしていることが記録に残されてしまっています。国税庁・国税局と議論を尽くさず、途上で取下げをしたのかの真の理由(もともとは照会要旨にあるとおり、給与所得課税でない点を確認したかったはずであると推察)については謎は深まるばかりです。
電話照会事案事績整理票(1)
電話照会事案事績整理票(2)
電話照会事案事績整理票(3)
電話照会事案事績整理票(4)
事前照会事案・事績整理票
文書回答等を行う事前照会の事績整理票
電話照会事案事績整理票
対象行政文書 No.3│ 国税庁「従来から給与課税…と回答」の根拠を見せて
行政文書の年月日が黒塗りで開示されていないため議論に終止符を打てる決定打(時系列での整理ができない)とはなりえませんが、たしかに、下記行政文書では、明示的に「給与課税になる」と国税庁が回答していたことは事実である(=少なくとも1件は確かに回答していた)ことが裏付けされています(【照会要旨4】の回答をご覧ください)。
なお、「給与課税になる」と過去に回答した事実があることは、必ずしも、「オーナーが信託に資金拠出するタイプについてまで給与課税になると国税局が回答した」ことと同義ではない点に留意が必要です(このNo.3の回答は、会社拠出型に対する回答ではなかろうか、という分析があるかもしれません。私は税法の専門家ではないため、この点は、税法の研究者・実務家の先生方に残された課題として問題をそっとバトンタッチさせてください。No.3の各照会前提事実をご解読いただけたらです)。
そして、こちらも同様に、給与課税が生じる旨を回答…しかし、年月日が不明。
電話照会事案事績整理票
文書回答等を行う事前照会の事績整理票
今後の研究について
本稿は、ひとまず、開示された資料について広く法律の実務家・研究者にその内容を共有するものあり、今後、開示された文書を精査していこうと思います。
「2023年信託SO騒動(副題:THE BATTLE. JYOTO-KAZEI VS. JURAI-KARA KYUYO)」について何か新しい発見があった場合には、お知らせいたします。また、資料を解読して、何かおわかりになったことがあれば、いつでもこちらからどうぞお気軽にお知らせください(勉強になります)。
8月15日追記今朝の日経新聞では、上野山様のパークシャ様が株式報酬で特損14億円という記事が掲載されておりました。パークシャ様やSansan様など処理が一巡することにより、騒動は沈静化していくのかもしれませんが、信託SO騒動の「真相」から(個人的には、誰が悪いとかではなく)学ぶべきことは多いと感じており、本稿が、読者諸賢の考察・検証に1mmでもお役に立てば幸いです。
人工知能(AI)開発のPKSHA Technologyは14日、株式報酬の一種である信託型ストックオプション(株式購入権)の課税処理を巡り、2022年10月〜23年6月期の連結決算で14億円の特別損失を計上したと発表した。国税庁が信託型について導入企業が想定していた課税処理と異なる見解を示したことに対応する。
パークシャはこれまで信託型ストックオプションの行使で得た株式を従業員らが市場で売却した際に売却益に対して20%の税金がかかると想定していた。国税庁は5月末、従業員らが権利を行使して株式を取得した時点で、会社が実質的に給与を支払ったとみなして課税するとの見解を示した。
給与課税になると地方税を含めて最大55%の税金がかかり、会社に源泉徴収義務が生じるためパークシャは源泉所得税を納付する。所得税は本来、従業員が負担するものだが、増加する税負担の全額を会社が原則負担し、従業員らに追加的な負担が生じないようにする。「これまでの役職員等とのコミュニケーションや信託型の導入経緯を踏まえ、(従業員らへの)求償権の一部を放棄する判断をした」とする。
同日発表した22年10月〜23年6月期の連結決算は特損計上が響き、最終損益が5億円の赤字(前年同期は7億円の黒字)となった。
パークシャ、株式報酬で特損14億円 国税庁の見解受け
まとめ
今回は、下記の「謎」に迫りました。
対立する主張 国税庁「従来から給与所得課税」vs. 信託SO推進側「オーナーが信託に資金拠出するタイプであれば、譲渡益課税であるとの回答を得た」
would have, should have, could have… 後出しジャンケンで外野はあれこれと「ああしていれば」「こうしていれば」と言えるのかもしれませんが、それはきっと当事者にしかわからないことでもあると思います。その一方で、(非難する趣旨ではなく)、果たして、国税庁・国税局への譲渡益課税という「照会」が、①行政文書として7点のうちに開示されているのか、②開示されていないのであればなぜか(A:照会がなされていない、B:照会がなされたが記録に残していない e.g. B-1 主観的には照会していたが客観的には税務当局に記録に残されるような照会に該当していなかったので記録に残されていない or B-2 主観的にも客観的にも通常記録に残されるような照会であったが記録に残さなかった、C:照会がなされて記録に残されたが記録は保管期間経過などにより破棄された、D:照会がなされて記録にのこされて保管されているが開示されなかった)、論理的には①・②A〜Dのいずれかに該当すると思われますので、真実はこのあたりに横断的にぼんやりと霞雲のように漂っているのかなと個人的に推察いたします。
「真実は一つ」ではない大人の複雑な世界のお話でした。
資料の中身については、今後、精査をしていこうと思います。
もしご研究で上記資料を利用されたい場合はどうぞご自由にご利用ください。
他方、記事・論説等で引用される場合については、国税庁様の御開示業務の時間・業務に敬意を払い、出典として、当該行政文書の名称や取得経緯(国税庁様の御開示により取得された資料であること)について可能な限りご言及を頂きますようお願い申し上げます。
ご多忙の折、信託SOの過去に関する解釈の違いという実務上重要な論点について、第三者が検証を行うための貴重な学術資料を開示くださった国税庁の担当者様に心からの敬意と御礼をこの場を借りて申し上げます。
なお、本稿は、信託SOの法解釈の是非(どの見解が正しいか)について解説をするものではありませんし、最終的には、裁判所の司法判断が待たれるものであると考えております。本稿は、行政文書開示請求を通じて、専門家による検証対象となる資料の幅を広げることにより、各人がお持ちの問題意識・論点について、より深い検証・検討を行うことを目的としております。もとより、異なる立場の方いずれをも批判・非難する意図はございません。どうぞよろしくお願いします。
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ご相談・講演のご依頼などはこちらからご連絡を賜れますと幸いです。
(了)
※記事に関しては個人の見解であり、所属する組織・団体の見解でありません。なお、誤植、ご意見やご質問などがございましたらお知らせいただければ幸甚です(メールフォーム)。
行政文書の「年」については、審査請求などで争えば「開示」される可能性もあるのかなと想像いたしますが、ガチガチの利害関係者以外は特段意義も乏しいことなので、特にアクションを起こす予定はございません(また、国税庁様には丁寧にご対応頂き、黒塗りの範囲も謙抑的で、感謝しかございません。しっかりと資料から勉強させていただきます)。