[報道]外国人の代表取締役にも使える商業登記の「住所非表示措置」の利用率は◯%

図表・データ | 組織内弁護士研究ノート® | 法務部とインハウス弁護士の金貨
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日本経済新聞の月曜版「税・法務」は、多くの法務部門や弁護士の方がご覧になっていると思います。今週の注目記事を取り上げながら、皆さまのご意見も伺えれば幸いです。学びの途中ではありますが、情報交換の場として活用いただければと思います。

1. 今週の注目記事

社長の住所「非開示」に壁―新規法人3%どまり 与信に懸念

掲載紙:日本経済新聞 | 掲載日:2025年7月7日 | 記事URL: 記事URL

2. 組織内弁護士の視点

記事の要点

記事によれば、代表者住所を市区町村までに抑えられる「一部非表示」制度(代表取締役等住所非表示措置)は2024年10月開始後半年で、新設株式会社48,687社中1,564社しか利用せず、利用率は3.2%です。

制度を使わない理由は「制度を知らなかった」31.3%、「手続きが煩雑」25.6%、「与信悪化懸念」21.8%が上位でした。

住所非開示は信用調査を難しくするとの指摘があり、与信判断が代表者保証依存から事業性重視へ転換すれば、制度活用が進み起業のハードルが下がると専門家はみています。

所感(問題提起はわかる一方で、分析が断片的ではないか)

まだ学びの途上ではありますが、所感を共有します。

今回の記事は「設立時」の利用率3.2%のみを示しており全体像が見えにくい点が気掛かりです。誤解があれば恐縮ですが、法務省公表の資料によれば、制度開始(2024年10月)から2025年3月までの6か月累計で住所非表示の実施件数は6,539件、うち設立時1,564件に対し、既存法人などによる申出が4,975件と全体の約76%を占めます(代表取締役等住所非表示措置の申出による実施件数(月報/令和6年10月~令和7年3月)参照)。

既存法人の動向を併せて見ると制度は一定程度利用されており、「3.2%」だけでは制度が機能していないとの印象を与えかねません。社内では代表者住所の公開範囲と与信への影響を、こうした総件数データも踏まえてバランス良く検討すべきと考えます。

組織内弁護士・法務部門が知っておきたいこと

2024年10月施行の代表取締役等住所非表示措置は、国内住所だけでなく海外住所も対象に含まれます。登記事項証明書には(どこまで省略できるかはケースバイケースのようですが)全部の住所は表示されません。

したがって、シンガポールに居住するシリアルアントレプレナーが日本法人の代表に就任する場合も、所定の登記申請と同時に「非表示」の申出を行えばプライバシーを守れます。

同様に、外資系企業において、外国人が日本法人の代表取締役に就任する場合にも、法務部門・組織内弁護士としてOptionを提示できるようにしておきましょう。

クロスボーダー案件を扱う法務部門・外資系サポート弁護士は、実際に申出書を作成・提出し手順と必要書類を体験学習しておくと、経営陣への説明や与信影響の評価が円滑に進むでしょう。

3. 関連情報

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(了)

※記事に関しては個人の見解であり、所属する組織・団体の見解でありません。なお、誤植、ご意見やご質問などがございましたらお知らせいただければ幸甚です(メールフォーム)。