日経「ジョブ型社員、解雇が容易に?(なるかもしれないし、ならないかもしれない)」

図表・データ | 組織内弁護士研究ノート® | 法務部とインハウス弁護士の金貨
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日本経済新聞の月曜版「税・法務」は、多くの法務部門や弁護士の方がご覧になっていると思います。今週の注目記事を取り上げながら、皆さまのご意見も伺えれば幸いです。学びの途中ではありますが、情報交換の場として活用いただければと思います。

サバティカル休暇が終わり、今週から月曜日のコーナーを再開いたしました。今回は、記事が毎回勉強になる社労士の資格もお持ちの磯記者の労働関連の玉稿です。磯記者の専門家としての👀が光ります。

ジョブ型の整理解雇―今週の注目記事

ジョブ型社員、解雇は容易? 三菱UFJ判決が示した「新条件」

掲載紙:日本経済新聞 | 掲載日:2025年11月21日(2025年11月29日更新)丨注目記事を執筆された記者:礒哲司 記者

記事によれば、職務限定型(ジョブ型)雇用者の解雇有効性が争われた訴訟で、東京高裁は三菱UFJ銀行側の勝訴判決を確定させた。本件は年収3000万円の専門職男性が対象。判決は、ジョブ型であっても整理解雇の4要素が適用されるとしつつ、企業側の配転打診や金銭解決の提案等のプロセスを評価し、解雇回避努力義務は果たされたと認定した。特定事業の廃止に伴う解雇について、高度専門職に対する企業の裁量や解雇要件の解釈に一定の指針を示す重要な判断となった。

ジョブ型の整理解雇―組織内弁護士の視点

1. 今回の判決の実務的な示唆

本判決は、もともとそうである外資系の「ジョブ型雇用」、さらに、昨今導入が進む「ジョブ型雇用」における解雇規制のあり方について、極めて実務的な示唆を含んでいます。

最大のポイントは、ジョブ型であっても、いわゆる「整理解雇の4要素」の適用が排除されないと明示された点であるかと思います。同時に、高裁が銀行側の「解雇回避努力」を認定した事実は重いと言えます。 通常、職務限定合意があれば他職種への配転義務はないとされるが、本件では企業側が「配転の打診」や「特別退職金の提示」というプロセスを尽くしていたことが決定打となった模様です。つまり、ジョブ型といえども、解雇に至るプロセスにおいては、日本的な「誠実な協議」や「回避努力」の形跡を残すことが、紛争リスクを一層低減する鍵となると言えるかもしれません(wish-to-have)―誤解があれば恐縮ですが、三菱UFJ銀行の法務部門・人事部門が適切にリーガルリスクを認識したうえで、労働法の外部弁護士と連携して、訴訟も念頭に、適切に準備を進められたのだと拝察しております

なお、対象者が高年収(3000万円)の高度専門職であり、労働市場での流動性が高いとみなされた点も考慮要素として大きいかもしれません。一般社員への適用は別として、高度専門職に関しては、担当する当該事業撤退時の解雇のハードルが、適切なプロセス(配転打診等の努力)を経ることで、従来よりも予見可能性が高まったといえるかもしれません。

2. 心理学の領域から法務パーソンが持っておきたい知識

組織心理学の分野におけるゴールドマンらの研究によれば、人々が解雇などのネガティブな決定に対して法的措置(訴訟)に踏み切るかどうかは、実は「結果(解雇)の正当性」そのものよりも、決定に至るプロセスにおける「相互作用的公正(Interactional Justice)」(例:どれだけ十分な説明を受け、敬意を持って扱われたか)に強く依存するということが実証的にわかっています。

人は「自分がないがしろにされた」と感じた時、経済的損失以上のコストを払ってでも相手にダメージを与えてやろう!とする心理的メカニズムが働くことが多くの実証研究で示唆されています。これは、法務部門や人事部門の皆様も、過去のご経験から、強く頷かれる部分ではないかと思います。

本件において、企業側が「配転の打診」や「退職金の提示」という丁寧なプロセスを踏んだことは、単なる法的なアリバイ作りを超えて、対象者の心理的な「尊厳」を守り、紛争のトリガーとなる「不当な扱いを受けた」という感情的爆発を抑制する、高度な心理的防衛策として機能した可能性が一定程度あると言えるかもしれません(し、実際訴訟になっているので、可能性がないかもしれません)。

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(了)

※記事に関しては個人の見解であり、所属する組織・団体の見解でありません。なお、誤植、ご意見やご質問などがございましたらお知らせいただければ幸甚です(メールフォーム)。