
松井裕喜(MTG法務課課長)の言葉丨目次
メモしたい法務の言葉とは?
松井裕喜(MTG法務課課長)の言葉
松井裕喜(MTG法務課課長)「事業部がこの契約でやろうとしていることをリアルに想像⋯する必要がある。」
松尾剛行=酒井智也=松井裕喜「スペシャル鼎談 AI時代、法務はこのままでいいのか?―3者の立場からの実践対話」会社法務A2Z 2025年11月号36-43頁
中堅組織内弁護士による分析(個人的な考え)
経営リテラシーが「法的鋭敏さ」を生む
松井裕喜氏の「現場をリアルに想像する」という言葉を選んだ理由は、ハーバード・ビジネス・スクール等で教鞭をとったコンスタンス・E・バグリー教授の論文『Winning Legally: The Value of Legal Astuteness』からも裏付けられるからです。バグリー教授は、法務・法律家が競争優位を生むには、単なる法令順守を超え、経営陣と事業目的を深く共有し協働する能力、すなわち「法的鋭敏さ」が不可欠だと論証しました。
“Legal astuteness… defined here as the ability of a management team to communicate effectively with counsel and to work together to solve complex problems… is a valuable dynamic capability.” (仮訳:法的鋭敏さとは、経営チームが弁護士と効果的にコミュニケーションを取り、複雑な問題を解決するために協働する能力と定義され、…価値ある動的能力である。)
契約書は「関係」の一部に過ぎない
一方、法社会学イアン・マクニール教授の「関係的契約理論」は、契約書を単なる一時点のスナップショットと見なしており、この点も松井氏の経験則と重なるように感じています。具体的には、真の契約は書面の中だけでなく、継続的な人間関係や取引プロセスの中に存在するという考え方です(企業の法務部門の方はほぼご同意頂けるのではないかと思います)。条文というテキストの外側にある、動的な「事業のリアル」を想像することこそが、契約の本質を捉える唯一の方法です。
“The discrete transaction is a fiction… No contract is totally independent of the relations between the parties.” (仮訳:個別の取引などというものはフィクションである… いかなる契約も、当事者間の関係性から完全に独立して存在することはあり得ない。)
想像力は法務の羅針盤
この二つの理論が示すのは、テキスト(契約書)の外にあるコンテキスト(事業のリアル)を見る重要性です。
松井氏の言葉通り、契約の向こう側で汗をかく事業部員を想像する力こそが、あなたの法務アドバイスを単なるリスク指摘から、ビジネスを動かす最強の羅針盤へと変えるのです。
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