*このコーナー(投稿)は、将来、論文・プレゼンテーション・会議・報告書・国内外の上司・同僚との会話に利用できそうな有意義な定義・データ・リンクを短くまとめたものです*
毎日新聞のここ数日の報道
ここ数日の報道で、毎日新聞の記事だけが特別な雰囲気がしていると感じていたインターネット関係の弁護士の先生は少なくなかったはずです。
昨日19日の自民党のプラットフォーム規制案の報道では、ご丁寧に「インタビュー」まで掲載され、20日本日は1面(上記写真参照)、24日開催の検討会で報告される中間「案」が早々にリークされて、詳細な内容が報じられています。
なお、毎日新聞は有料会員に誘導するため「記事にロック」をかけていますが、不思議とこの記事だけは無料で全部公開されています(いつもと同じように途中でロックしておけば自然なのですが)。
中間報告案のポイント(抜粋)
毎日新聞は、「独禁法を補完する形」で「新たな法制化」を行うとのリード文を掲載し、さらに「行政処分で規制」ととっても目立つタイトルを付けて読者の注意をことさらに喚起します。
巨大IT企業のルール整備に関する政府の中間報告案のポイント
巨大IT規制 行政処分も視野 政府が検討、ネット通販から
①プラットフォーマーは取引先事業者や消費者に便益を与えるが、寡占や独占が生じやすく、公正な取引慣行の構築が必要
②過剰規制で新たなイノベーションを抑止してはならず、バランスの取れたルール整備が必要
③市場の透明化・公正化促進に向け、独占禁止法を補完する新たな法制化を検討
④民事訴訟だけでは取引事業者の十分な救済が行われない恐れがあり、行政処分を含めた検討が必要
独占禁止法を補完する新たな法制化を検討
③については、既に、「ガイドラインの改正などを超えて、新法制定による何からの規制は避けられない見通し」というのは、日本組織内弁護士協会の第3部会(インターネット、エンタメなどの業界の組織内弁護士で構成)で勉強会でも、有識者の先生からご示唆があったところです。議論をフォローされている先生には大きなサプライズではなく、既定路線であることと、さらに、次の成長戦略に盛り込むと言う安倍総理の意向を踏まえて、政府での温度感が高い(楽観視できない)アジェンダであることを再確認できる内容です。
行政処分を含めた検討が必要
④については、「行政処分で規制」というのは③の帰結であり、この線でいくのであれば、そうだろうなと思います。リード文の通り「独禁法を補完する形」で新しい法令というオプションをとるのであれば、努力義務や指針ではなく、行政法上の義務を負う以上、むしろ、管理監督権限がまったくない規制法令という方が奇異です。また毎日新聞は、契約条件の「開示義務」が新法の柱であると報じており、適切な開示を担保するための行政監督権限が(公取委に?)付与されるということも③のオプションを講じる以上、形式的にはそうならざるをえないのだと思います。
公取委の調査結果が立法事実となって・・・
公取委による実態調査の結果も踏まえ、当面の規制対象はネット通販で利用者が多いオンラインモールと、スマートフォン用アプリなどを売るアプリストアの運営事業者とする。今後の調査で、業態や規模の大きさごとにどのような問題が確認されたかによって柔軟に対象を広げる。
同上
公取委の実態調査自体は、当初から、立法事実をコネコネするための1つの作業であると見られておりましたが、毎日新聞の報道によれば、『オンラインモール』『スマートフォン用アプリなどを売るアプリストアの運営事業者』のみを規制対象とするとのこと。仮に規模の大小を閾値にしないのであれば、政省令などで規制対象業種を列挙するようなイメージでしょうか(「柔軟に対象を広げる」とのことなので法律自体には書き込まないのでしょうし、法律に書き込むにはなじまないと思われます)。
調査の蓋を開けてみれば、せっせとメディアがやり玉にあげていた外資系サービスよりも、国内系が20ポイント以上リードし首位になっていることが注目を浴びました。
私見にすぎませんが、今後、仮に、③新法の道をたどり、かつ、④対象業種が限定されることが避けられなくなった場合、どの業種がリストアップされるかについては、様々な攻防があると思われます。
特に、規制のハネを受ける同じカテゴリにある事業を運営している会社の法務部門については、引き続き、規制の議論を、来年法律ができる前後、特に政省令の制定の段階まで気が抜けないものと思われます。
現時点のまとめ
「新法制定」オプションが、①公取委の調査発表で問題意識を喚起し(けしからん!と思わせ)、②与党と③政府検討会(の事務局?リーク)からほぼ同じタイミングで「けしからんものに対してはしっかり規制だ!」というリズム感がつくられており、周到な世論の温め方をみると、2019年6月の新・成長戦略に「新法」オプションが明記・盛り込まれるという見方がさらに補強されたのではないかと思います。
検討会の前の「リーク」についても「飛ばし記事」の可能性もありますが、検討会報告前に内容をリークすることで、ガイドラインの改正にとどまらない、1つの新法という「方向性」を作り出したいという意図が介在している可能性も一応法務部門としては可能性として排除しておかないほうがよいのかなとも思います。
2020年の通常国会提出のスケジュールというのも、動き方によっては、秋の臨時国会というような早急な立法も一応視野に、「開示義務」が当事者間ではなく公衆縦覧のようなサイトやアプリ上での「掲載・掲示義務」になるとすれば、プロダクト変更が必要かも含め、対応のHeads-upは今後適宜のタイミングで必要になりそうです。
対象業種をどう法律又は政省令に落とし込むかは更に難しい
最後の個人的な意見を書けば、少なくとも私が知る限り、日本法で「プラットフォーム」を定義した法令(この法律で「プラットフォーム」とは・・・をいう、という定義規定)はおそらくありません。立法技術的に「細かいことは知らん、えいや!」で解決できますので、対象になる事業者が声をあげないと、知らないうちに巻き込まれているということもありえます。
例えば、(A)北海道にある地域おこしNPOが農家のおやさいを直売できるサイトを立ち上げて農家が2件出品したら「オンラインモール」で規制対象になるのか?、(B) 日本人に人気を博しだしたイタリアの運営事業者が英語で運営する「イタリア製革バック」を様々なメーカーから購入できるサイトにも域外適用があるのか?、(C) 一見オンラインモールには見えないけれど、実はSNSで使える「スタンプ」はクリエイターが出品しているスタンプショップはオンラインモールなのか?、(D) 仮にユーザとお店が直接契約できる「場」をもってオンラインモールというのであれば、契約上「小売店」をユーザの契約当事者にせず、サイト運営者自体が契約当事者となれば規制は適用されないのかとか、(E) 積極的にブログでアフィリエイトを貼り付けてあたかもモールのように様々な商品購入を助けるオススメサイトはオンラインモールではないのか、など様々な実務的な課題が思い浮かびます。
深掘りのための資料
(了)
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