1. 報告・御礼
朝日新聞デジタル「法務分野にAIサービス続々、業務増に人材不足で 将来に警戒の声も」(10月7日)のリーガルテックに関する記事にコメントが掲載されました。取材対応について依頼いただきました日本組織内弁護士協会の皆様に感謝申し上げます。
[掲載記事]
法務分野にAIサービス続々、業務増に人材不足で 将来に警戒の声も
2. 私見
元栄太一郎 氏(弁護士ドットコム社長)
「弁護士法は非常に抽象的なので、線引きがあいまいだった。ガイドラインでホワイトゾーンが明らかになった。契約書にとどまらず応用ができる」と、法務省のガイドラインがAI活用の幅を広げたことについて述べています。
石井隼平 氏(YKKAP社内弁護士)
「いまのAIは、法改正や最高裁判例などの最新の実務を確認する必要がある。AIは責任を取らない。人の確認、判断が必要だ」と、AIが法律業務を完全に代替するには限界があることを指摘しています。
松尾剛行 氏(弁護士)
「AIで弁護士の仕事がなくなることはない。ただし、正解があって付加価値が高くない仕事はなくなる」と述べ、AIが特定の業務を効率化する一方で、人間の弁護士の役割が依然として重要であることを強調しています。
法務分野におけるAIの進化とその限界について、元栄太一郎氏、石井隼平先生、松尾剛行先生の見解を統合すると、AIが契約書の審査やリサーチといった業務の効率化に寄与する点が評価されています。具体的には、弁護士法のガイドラインの明確化により、AIが法務業務に適用される範囲が拡大し、特に定型化された業務では、AIが非常に役立つとされています。しかし、AIにはまだ限界があり、最新の法改正や判例を常に正確に反映することができず、人間の確認や判断が必要であるという指摘も重要です。また、AIが付加価値の低い業務を代替する一方で、弁護士が果たすべき「人間的」な判断や戦略的意思決定の重要性は依然として残るという点も強調されています。
これに対して、AIの進化をやや過小評価している声はあるかもしれません。生成AI技術は急速に進歩しており、既に高度な法的分析やシナリオシミュレーションを行う能力を持ちつつあります。将来的には、AIが法改正や判例の最新情報を自動的に学習し、法律業務全般において弁護士に匹敵する精度を持つことも十分に予想されます。これにより、「人間の判断が常に必要」という見解は、技術の進展を見越すと、将来は維持できないとの声もあるかもしれません。
しかし、私自身は、法律業務には、技術だけでは対応できない「人間の判断」が(最終的には)必要な場面が残ると考えています。法的判断には倫理的問題や社会的文脈(right thing to do or not)が深く関与しており、AIの統計的判断には難しい領域が存在しうると考えるからです。例えば、クライアントとの信頼関係の構築や法的リスクに対する戦略的な判断は、補助ができるとしても、データ分析に基づくだけでは適切に対応できない部分です。また、法律の適用には、国や地域ごとの文化的な違いや微妙な価値観も含まれ、それらをAIが十分に理解し、適切に対応するのかは今後見定める必要があると思われます。したがって、AIの進化が進んだとき、弁護士が持つ「人間的な判断」や「倫理的な意思決定」の重要性は今後も法務業務においてどのように変化していくのか、慎重に見だ定める必要がありそうです。
リーガルテックと弁護士法 関連記事(本ページを含む関連リンク)
①[報告と御礼] 規制改革推進会議「契約書の自動レビューと弁護士法」(有識者として参加してまいりました)
②新規論説:渡部友一郎=角田龍哉=玉虫香里『弁護士法72条とリーガルテックの規制デザイン(上)』ビジネス法務2023年2月号92-96頁
③新規論説:渡部友一郎=角田龍哉=玉虫香里『弁護士法72条とリーガルテックの規制デザイン(下)』ビジネス法務2023年3月号131-135頁
④新規論説:渡部友一郎「基礎からわかるリーガルテック(11) 規制改革推進会議における弁護士法72条と契約書自動レビューの議論(上)」月刊登記情報63巻1号(2023年)60-66頁
⑤新規論説:渡部友一郎「基礎からわかるリーガルテック(11) 規制改革推進会議における弁護士法72条と契約書自動レビューの議論(下)」月刊登記情報63巻2号(2023年)[掲載予定]
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(了)
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